Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
疑問

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ある男がいた。その男は定職につかずに実家で毎日だらだらと過ごしていた。と言っても無能なわけではない。ある有名大学を無事卒業しある有名企業に無事就職した。だが数ヶ月勤めたらある日休みたくなった。そしてその後も子とあるごとに休むようになり、ついには自主退職というわけだ。
 
 その男がある日たまたま見た新聞に妙な求人広告があった。給料は大体普通の会社員が5日で稼ぐ分くらいだろうか。高給だがそれほど妙に感じることはない。変なのは仕事内容だった。一泊二日の温泉旅行をするという仕事だ。男はアンケートか何かをとるんだろうと思ったがそうではないと書かれていた。それに社名も書かれていなかった。気になった男はその会社に電話をかけてみた。すると若い女性の声が聞こえた。
「はいこちら産業開発推進社です」
男は観光会社ではないのを意外に思いながら、質問をした。
「あのう。すいません。今日の新聞広告を見たんですが……」
 女性社員は元気よく応えた。
「それでしたらわが社へ履歴書をお送りください。メールでも郵送でもいいです。わが社のメールか郵便番号はお知りですか」
「いいえ。でも自分でネットで調べます」
「そうですか。ありがとうございます」
 男はすぐさまネットでこの会社のことを調べた。出てきたのは自社ホームページだけ。それもメールアドレスが書いてあるだけの簡素なものだった。男はいろいろ想像をめぐらせた。
(一体この会社は何をしたいんだ。目的がまったく分からん。アンケートが目的でないなら何を……。大体なぜ観光会社でもない会社がこんなことを。結構な費用がかかるはずだ。)
だが明快な答えは出なかった。男はもやもやした気持ちで履歴書を送った。

数日後産業開発推進社から電話が来た。
「おめでとうございます。集合場所と日時はもう少し後お知らせします」
 男の感情はと不安が複雑に入り混じっていた。そのあとに集合場所と日時を知らされた。場所は男の実家の近く、日時は三日後の朝八時。その日男の予定は何もなかった。まあ無職で彼女もいない男にとっては当たり前のことだ。

 三日後の朝八時に集合場所に男はいた。男は遅く来たのでもう大体の参加者は集まっていた。二、三十人ぐらいはいるだろうか。祖の中心にはガイドがいた。さいごのさんかしゃが来たので、ガイドはみなをバスに乗せた。

温泉旅行と言ってもいろいろなところをめぐる。だが細かいことは知らされてなかった。がしかし、みな観光名所をめぐるんだろうと思っていた。だが一時間ぐらいしてついたところは深い森だった。参加者の一人が質問した。
「何のためにここに来たんですか」
「詳しくは教えられないんです申し訳ありません。私についてきてください。地図とGPSは持ってきてあります」
参加者たちは不安げながらガイドについていった。いくら歩いても何も変わらなかった。
ただずっと森が広がるだけ。歩きながら男は何のためなんだろうと思ったが答えは出なかった。すると突然キーンという音が聞こえてきた。男は思わず声を上げた。周りを見渡すと聞こえたものと聞こえないものがいたようだった。不安に思いながら二時間ほど歩くとガイドは突然
「帰りましょうといった」
 これには怒りをあらわにするものもいた
「一体何のために来たんだ。お前のせいでずいぶん疲れたぞ」
ガイドは毅然と応えた。
「文句があるのでしたら帰って結構ですよ。
ただし来た理由はあります。後々お知らせします。帰った場合は知らせませんがよろしい
ですか」
 その言葉を聞いて男は一応ガイドに従った。
まあ従わなくてはバスには帰れないが……。
バスに帰ったあとガイドは突然
「昼食をとりましょう。ここら辺でおいしいお店があります。費用はわが社が持ちます」
と参加客に呼びかけた。バスでその店まで行った。そしておのおのが注文をとろうとした時急にガイドがこう言い出した。
「皆様言い忘れていましたが、母音から始まる料理はわが社が費用を出しません」
男は思わず質問した。
「何でそんなことを……」
 だがガイドの応えは予想通りだった。
「答えられません」
 幸い男が頼もうとしていた料理は母音から始まらないのでよかったが中には不満を持つものもいたようだった。

が、食事はうまかった。男は少し気をよくした。その後参加者たちを乗せたバスはもときた方へ向かった。男は
(何でわざわざ無駄なことをしたんだろう)
と思った。が答えは出てこない。バスは今度は一応観光名所らしきところに着いた。ガイドが
「言い忘れていたことがございました」
 と参加者たちに告げた。みないやな予想を立てながら聞く。だがそれは予想外にいいことだった。
「みなさまにここで新たにお金を支給いたします。」
 額は最初の給料は五分の一だった。悪いこと続きだったのでみな喜んだ。観光名所をガイドの案内で順調に進んでいたそのとき突然参加者の一人がわけの分からないことを叫びだした。そいつはガイドにつまみ出された。戻ってきたガイドの作り笑いが妙に不気味だった。男の疑問は高まっていくばかりだった。

宿に着くと予想外にいい宿であった。だがしかし、なぜか看板がかけられていなかった。
みなで夕食を食べ自由行動をとっていいといわれた。だが、男はそんな気持ちが起こらなかった。今日の起きたいくつもの不思議な出来事それを部屋で考えていたのだ。するとなにやら音が聞こえてきた。不気味な音だったが、男は何とか眠った。

 翌日起きるとガイドが突然
「宴会を始めます。費用は全部こちらが負担します。」
と言い出した。朝から宴会などいやだと思うものもいたかもしれないが反対しても無駄なことは誰もが知っていた。が、やってみるとなかなか楽しいものだった。満腹感と酔いのせいか男は眠ってしまった。

 男は目を覚ました。みな眠っていたようだった。男はどうやら最後に起きたようだった。宴会場はざわついていた。何しろ周りにはわけの分からない機械がたくさんあったし、ガイドは白衣に着替えていた。ほかにも数名の白衣を着た者たちがいた。参加者の一人が叫ぶように質問した。
「いったいこれはどういうことなんだ」
ガイドはあわてずに応え始めた。
「皆様には眠っていただきました。飲み物に入れた睡眠薬で。飲まなかった方には不本意ながら睡眠ガスを使用させていただきました。」
会場がどよめく。男は怒り気味に質問した。
「何でそんなことをしたんだ」
「真に勝手ながら皆様の脳からとある物質を頂戴しました」
男にはそのことばがまったく理解できなかった。
「はあ?どういうことなんだ説明しろ」
「わが社の本当の名前は人間能力開発研究社といいます。その名のとおりに人間の能力の研究開発をするのが仕事です」
 参加者一同はおのおの考えていたようだが、誰も理解できたものはいなかった。
「皆様まったく持って意味が分からない顔をしていらっしゃいますね。われわれの研究の成果の一つが疑問を持つ成分の発見です。疑問を持つ成分は重要なんです。これをカプセルに凝縮し、受験生の方などに買っていただく。そうすると受験生の成績はどんどん伸びるというわけです。皆様から抜き取ったのはこの疑問を作り出す成分です。ですから皆様が今まで疑問に思っていたことはすべてこちらの小細工だったというわけです。疑問を高めるための。たとえばわが社の社名を偽っていたのもそのためです。また森の音は可聴域の差を利用したトリックです」
 それを聞いて男は怒った。
「なんだと。とんでもないものを抜き取りやがったな」 
 男は冷静に応えた。
「勘違いなさっては困ります。その成分はどんどん作られていくもんなんですよ。だから抜き取ってもまた補充されます。それに皆さんは補充されるのも早いと思いますよ。履歴書を見て高学歴の人ばかり選びましたからね。たいてい高学歴の方のほうが成分をいっぱい作っているんです」

       

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