悲しくて、悲しくて、この場所は哀傷に満ちていた。
人はいずれ死ぬのだろうけど、まだ彼女には早過ぎた。
「数日前、彼女を見た時は元気だったのにな」
そのような話が飛び交い、彼女の元気な未来を皆が望んでいた。
けど、その未来は来ることがなかった。
そう、この場所では私を含め全てが悲しみで染まっていた。
けれども一人、少しも悲しみを出さず笑ってる奴がいた。
不謹慎だ。不謹慎きわまりなかった。
しかも、それが彼女の親友なのだから・・・
「あなたは、どうして悲しい顔ではないのですか?」
私は気になり、質問してみた。すると
「先ほどまで悲しかったわ。でも、悲しくなくなったの。信じられないくらい」
彼女の言ってる意味が分からなかった。
悲しくなくなる理由も分からないし、ここで笑ってる理由も分からなかった。
もしかして、彼女はそこまで親友ではなかったのだろうか?
「悲しくなくなったからといって、葬式の場で笑わないで」
私はつい感情的になり、声が荒くなった。
「ごめんなさい。でも言っちゃ悪いけど、私はあなたより悲しい気持ちなら勝っていた自信があるわ。
けれども・・・あそこの人に、その悲しみをあげたの」
彼女が指した方向には、見たことも無い男が立っていた。
「悲しみをあげた?」
ますます意味が分からない。そんな不思議そうな顔をしてる私に彼女は
「彼のところに行けば分かるわ」
そう言い残し彼女は、立ち去った。
私は彼女が言った疑問を解消するべく、男へと声をかけた。
「すみません。よろしいですか?」
「なんだ?」
男は物色していた目を止め、私の方を向き、凝視した。
「あなたが・・・えーっと、悲しみを解消してくれると聞いたんですが?」
彼の威圧感が妙にあったし、どう言えばいいのか分からなかったので、少し言葉に詰まった。
「そうだな。確かに私は悲しみを解消することができる。いや解消というよりかは『奪う』という表現が正しいな」
・・・悲しみを奪う?やっぱり意味が分からない。疑問が増えてくばかりだ。
そういえばこの男の所に向かう途中、とある話を小耳に挟んだ。
「篠塚さん知ってる?」
「え?だれ?だれ?」
「あの~、死んだ子の親友だった子」
「あ~、知ってる!影の薄い子でしょ?」
「あの子、私が最初見た時は、すごい泣いてたの。もう、後を追って自殺しそうなくらい。
でも、さっき見たら、・・・笑ってた。
もしかして、あんたが殺したんじゃないか?ってくらい」
「え~怖い~」
この話から考えると、確かに彼女は、私に勝るくらい悲しみを持っていたのだろう。
けれども、私が見た時には、気味が悪いくらいに笑っていた。
まるで、悲しみという感情が消え失せたかのように