Neetel Inside 文芸新都
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 唐突に起こる事象は、万人には想定できないような事もある。
 
 ――想定。予想、先を読む事には必ず限界がやってくる。

 人が考えられることは、その人の種類、考え方、性格によって違う。それは人それぞれ、と言える事である。
 自分が今まで生きてきた環境。周りの環境。友好関係等で、著しく考え方は変わる。
 人はそれぞれの思いを胸に、生きている。
 
――風は生まれ変わる。速度を変え、形を変えて。

――光は生まれ変わる。その輝きを増し、色を変えて。

 blue boys

「自分の思いを、考えを、意思を継承する人間が居ない場合、どうすればいいのだろうか」
 人は孤独に生きている。そういうヒトもいる。周りの環境に慣れず、自分から逃げ出し、他のヒトが作り出した環境を拒絶しながら生きて行くヒト。
 孤独に生きる人間も、言葉を使う会話によって、環境になじめるようになる時もある。
 それをしても、歯車が噛み合わない様に、交換されたヒトもいる。
「それは、ヒトが自分から道を歩もうと思わない限りは、諦めざるを得ないと思う」
 自分から歩みを止めた人間は、そのまま成長を――
 ――人間として完成したという答えを、自分の胸で作り出し、我侭、自己中心的に生き続ける。
 ヒトはヒトとして、周りとの接触、交流を避けては通れないというのに。
「ヒトは、話す。会話する事で伝えることができる。手当たり次第に話してみても」
 
――その相手が居ない場合、取れる手段は、果たしてあるのだろうか?

 red girls
「望まれぬ子を作る。その考え方が私には分からない」
 親が、子に、継承する物を与える事を考えずに身篭り、自分勝手、奔放に育てられたヒトは、親から受け継ぐモノもなしに生きるしかできない。
 それは、親からの試練なのか。それとも気まぐれなのか。 
 親から受け継がなければならない思いと行動は子が自分で選ぶしかできないというのに。
 子が、自分から思いを作り出すのは、極端に言えば難しい事なのに。 

――その子の歩む人生は、誰にも分からない。わかるのは、恐らくその子だけであろうに。

「本当に望まれる子とは、一体なんなんでしょう」
 親が思いを注ぎ、子が受ける。その思いは、そのうち子の人生に影響を受けるものもある。
 人生。それだけではない。 子の思考、考え方に大きく左右されることにもなる。

 親が継承させたい思いを、仮に言葉にできなくても行動であらわす事ができる。
 そして、その思いを受け継がせることができる。その状態で生まれた子が、本当に望まれた子なのかもしれない。

「親が子を容器としてしかみないのならば、その子は幸せになれるのでしょうか?」
 
 ――それは、誰にも分からない。分かるのは、育ち、自分の心を確立させることができた子だけなのかもしれない。

 幸せとは、一体何なのだろうか。それは恐らく人によって違うものである、と言う事だけは言える。
 幸せの形とは、一体何なのだろうか? そもそも、無形であるものに形を求めるのが野暮な事なのか。
 その答えは、誰にも分からない。

――風が、光と混じり、光は風の形に変わり、駆け抜けてゆく。 まだ見えない先へ、同じ終着点へ向かって。

 …………………。

 ある日、どこかで見たことがある男性が、彼のいるオアシスにたどり着いた。男性は子供を連れていた。
 直接照りつける太陽の光を遮る為のマントを、二人とも頭から被っている。ぼんやりと入る光から見える表情は、無機質なものを彷彿とさせた。
「お久しぶりです」
 あの時はあまり気にも止めていなかった男性の姿だが、声を聞けば彼は大体の記憶は思い出せた。
 ぼんやりとした記憶しかなかったが、声を聞けばおおまかな姿が把握できた。
 街で"空"の話をした、あの人だと。
 彼は、軽く手を上げて返事を返す。人と話すことはあまり慣れていないからだ。

「あなたは、いつかの……街で空の話をした?」
 そう彼が言葉を探し、返事を返すと男性は自分の頭の覆いを後ろに回し、顔を出す。
 初老。老年期に入った。そんな感じがした。短髪の白髪交じりの髪に、同じく白髪が混じった髭を生やしていた。
「覚えていてくれましたか。いや、あの時は……今回もですが、唐突に失礼しました」
 覚えているというよりも、彼には人との交流は少なかった。一度話した人間であれば、それなりに思い出せてしまうほどに。
 人との交流が少ない、というよりも。

――自分から人との交流を削っている。そんな感覚なのだろう。

「ほぼ初対面と変わりのない私ですが、どうかお願いを聞いていただきたい」  
 男性は彼の目を見て、そう言った。人との交流がない彼でも、目を見て話すという事は真面目な事なのだという認識があった。
 しかし、人との話をあまりしたことがない彼にとっては、男性の視線はひどく痛く突き刺さるようだった。
「……お願いとは何でしょうか? まず話を聞かせて頂かなければ、返答のしようがないのですが」
 彼は、自分の考えうる最大限の返答をした。
 そして返答をしてすぐに、はっとした。押し切られたと思ったのだ。
 聞くと言ってしまったからには、聞かなければならない。そして、頼まれるのだろう。
 頼まれたら、聞いてしまった以上受けなければならない。
「この子を、頼みます」

 男性は、子供の頭に手を置いた。マントで影になっているが、子供はそれに関して表情を変えることはなかった。
「その子は一体?」
 子供の頭に手を置いたまま、男性は話を続ける。
「この子の名前は、テシトと言います。私の孫娘です」
 

       

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