Neetel Inside 文芸新都
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テシト
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――僕は、そうだ。何かを探していた。

――「何か」

――「何か」「なにか」

――その「なにか」とは。なんだろうか。

――その「なにか」がわからない。どういう事なんだろうか。

――考えれば、すぐわかるような簡単なことだと思うのに。わからない。

 光が、駆け抜けた。体の隙間を通り越し、先へ、先へと。
 風が、追い抜いた。光が弱まり、消えた後に。
 また光が駆け抜けた。負けじと、追い越し、復活する。

 風は、吹いたままだった。失速する事を知らず、己の力でただ、ただ進む事を望んだ。


 ―blue boys―

「世界が滅びるとしたら、俺達はどうなるんだと思う?」

 不意、に。

「その世界が滅ぶ、ということに段階があるのか。あるいは一瞬なのか」

 一人は、そう聞いた。

「世界とは、どういう概念の物なのか」

 もう一人が聞いた。
 その質問に、当事者は一人、悩んだ。そこまで詳しく考えていなかったのだろう。
 あるいはこんな風に帰ってくるとは思わなかったのだろう。
 自分の元からある概念に対しては、ヒトという生物は意外と頑固なものである。

「世界が滅びるという、手段。人が起こすのか、自然が起こすのか」
 
――風が、吹き抜けた。

 ―red girls―

「人が起こすという物は、自然に匹敵する力があるのでしょうか?」

 女性が、聞いた。ヒトに。
 科学者でも、研究者でもない。ただの世論に流されるどこにでもいるような女性に。

「わからない。やろうと思えば、誰かがやるかもしれない」

 女性は、そう答えた。
 
 一呼吸。つくと彼女は口をもう一度開いた。

「戦争における人間に対しては、混乱を招くモノ、生き物。自然の摂理に逆らい。別の生き物までをも侵食してゆく」

――ヒトという生物は、加減を知らない。一人一人がそうでなくても。多人数が集まればヒトと言う生物は変わっていく。

 そう、ヒトは――



 貴方には、感じれるか。自分の思いを。
 解るか。自分の考えている事を。理解している事を。

 しかしそれは、先代以前の祖先が作り出した定理に基づかれているものも含まれている。

 ヒトとは、繋がって生きていく上で得た、情報と、感情と……。

――「心」の積み重ね。継承で「今」をも生きている。

 
 
 ヒトがヒトとして生きていく。そんなお話。

     

 草原。この言葉でどう思い浮かべるか。
 自分の足元に草がある。周りを見渡せば、草。雑草。
 そこらじゅうにある、頼まれてもいないのに大量に生い茂る草。
 そして、それはある一定以上の長さまでしかない。まるで誰かの手によって整えられたように生えている。
 光で暖められ、風で草がなびく。手触りにはすこしざらりとした、それでもなぜか心地よい感触。

 砂漠。この言葉でどう思い浮かべるか。
 自分の足元には、砂。細かく打ち砕かれ、さらりと手から零れ落ちる。
 あたりを見渡しても砂。あるものは自分と言う存在と砂。
 そして、太陽。熱く照り、焦がすようにあたりを焼き尽くす。

 砂漠には、天国があった。
 天国というにも、遠いものだが。その場の環境に置いては天国に見えてもいいのでは。そう思う。

 砂漠にはオアシスというものがあった。
 ある一定の場所に置いて、一部分だけ草原のような場所。
 神が残した、地上の、クモの糸。

 地獄から変わる、唯一の場所。

 話は、そのオアシスという場所に住む一人のヒトから始まる。

 …………………………

「オアシスという名前は、誰が付けた」
 ひとりの旅人が尋ねた。そんなもの、わかるはずがない。
「わからないな。遥か昔の生きた人間の考えた言葉が、今でも継承されているのは間違いないが」
 オアシスに住む男は答えた。それが一番考えられる。「まとも」な答えであると言うことは解っていたからだ。

「砂漠を超えないのか?」
 さらに一人の旅人がこう、尋ねた。
 考えた事もない。
「わからないな。水筒もなにもない。超えようとすれば死ぬだけだ。たったそれしかない」
 住む男がそう答えると、旅人達はこう言った。 
「俺達についてこないか? 一人だけここにいても仕方がないだろう」
 願わない事だった。彼はここから離れたくなかった。
「悪いが。その気はない。ここで一生を暮らすことにしたんだ」
 旅人達は、その返答を聞くと翌日準備をして出ていった。

(口だけの偽善が出す、心にもない言葉)
 彼は、表には出さなかったが。人間と言う生物は嫌いだった。
 表に出さないのは、彼自身の最後の人間に対する心遣いと言うものだったのだろう。

 彼の人間嫌いな理由は特になかった。ただ、人間が嫌いなだけだった。
 自分と言うその存在自体も嫌いだった。

 彼はたまに思う。

「自分が人間でなければどれほどよかったか」

 人間であるがゆえの、思考を持たなければならなかった。思考は物事を考える事。ヒトを思うこと。生物を思うこと。
 自分に接する人間は昔から少なかったからか、自分に信用してくれるヒトなどいないだろう。そう思うことが昔の彼だった。

 彼はオアシスを転々としている。オアシスからオアシスへ。食料を街に買いに行き、またオアシスに戻り生活を暮らしている。
 食料を買いに行くときは、必ずヒトと接しなければならない。それが、彼にとってもっとも面倒な事のひとつであった。
 一つ二つの言葉を返すのも面倒だと言う。ヒトに対しては。

 でもそれは、彼が生きるために仕方ないと妥協することだった。

 辺境の地に住む彼が、まだ思うことは、自分は生きたいという、本能に従うことでもあった。

「一人で暮らそう」

 彼がそう思ったのは、二十を過ぎたあたりだった。

 昔の事をほじくり返すと、理由は見つかるかもしれなかった。どこかに必ず、理由があると思う。彼は極たまにそう考える。
 しかし、自分の保守のためだろうか。自分を保つためだろうか。結果は自分は悪くないと言うものだった。

 家の金がなくなったときは自然と彼が罰を受けた。
 友達の遊びの誘いも、連絡もなく別の場所へ行かれていた。
 始めて出来た彼女は、友達に寝取られ、別れた。
 友達が借りた金を、自分に擦り付けてきた。連絡もなしに。

 家族が死んだとき、彼は一粒の涙も流さなかった。

 家族とは、彼には他人の集まりでしか無かったから。

 家族とは子に接するものだが、彼の家ではそれは無かった。
 親父が母を殺し、次の母もその親父に殺され。
 その次の母は殺される前に、まだ10代の彼をつれて逃げた。3人目の母は信頼できたが、その母が再婚した相手もまた暴虐な性格を持ち、酒を飲めば暴れ、彼の体を刃物で切りつけたりもした。
 
 それが、意外と理由なのかもしれない。ヒトを嫌いになるのは十分すぎるほどだろうと思う。
 細かい事を言えば、まだ見つかるかもしれなかった。だが、これ以上はただただ、マイナスの思考に陥るものだろうから、彼は昔を思い出すのを止めた。

――ただ砂漠の真ん中で暮らすのだけでは、退屈もあるから。彼は街に行った。

       

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