Neetel Inside 文芸新都
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テシト

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――ひとつの命が誕生した。望まれない命。望まれた覚えのない命。だが、長く生きることが出来る命。

――ひとつの命が誕生した。望まれた命。望まれたが、長くは生きられない命。 

 ―blue boys―
 
「ヒトの生命は、長かった。思考可能な生物を長く生かす必要は無かったのではないだろうか」
 思考可能であるがゆえ、多くの命を滅ぼし、食らい、生きる。
 その多くの命は、望まれないものも含まれており、望まれているものも含まれている。

「運命は、避けられないものか。ヒトとは、何をするべき生き物なのか」

 ヒトとは、地球の上で生まれた、思考をもつ生物。
 服をきて、感情を持ち、泣き、笑い、怒り、悲しみ。

 憎しみ。襲い掛かる感情の嵐。

――光が、駆け抜けた。


「感情を持たせるべきではなかったのか。神は何を考えていた」

――神。その言葉は逃げのひとつでもあるということは、誰もが考えていた。

 ―red girls―
 
「なぜヒトは望まれぬ子を授けるのか」
 生まれた生命を荒く扱い、まるで物のように扱うヒトまでいる。
 自分の血と肉を分けた、そして、継承するべき事を教え、伝えて行く事が出来る存在だと言うのに。
 
「望み、授けた子が不幸なのが私には気に食いません」
 環境が望まれず、運に恵まれず、運命に逆らえず。

 それでは、どちらの子が不幸なのか。わからない。

――風が、光を拡散させた。 そして光は、新しい物へ生まれ変わり、また光へとなり、駆け抜けた。


「心というものはヒトを、残酷に傷つける」
 一人が席を立ち、外へ出て行った。

 …………………。

 街が賑わっていた。ヒトが次から次へとあふれている。
 熱がこもっていた。太陽の熱だけではない。ヒトが生きているという熱。活気。賑わい。
 ヒトは嫌いだが、彼はこの空気が好きだった。
 自分も生きていると思わせてくれる環境のひとつでもあるからだ。

 それでも、彼は自分から接する事は無かった。
 周りから、接してくれば返答ぐらいはする。それが彼の交流だった。

 彼はいつしか広場に付いた。公園のような場所だが、子供向けの遊具はひとつもない。
 ただ、彼をあらわすようにぽつんとベンチがあるだけだった。木が影をつくり、そこだけ多少の涼しさが与えられる場所。
 ある意味では、そこもオアシスのようなものなのかもしれない。

 彼はそこに座り、上を見た。

――空。

 時間はまだ昼間。太陽が照らし、光が目に入る。眼に焼きついた光の残像は、まぶたを閉じてもまだ見ることが出来た。
 太陽から照らされる光を手でよけ、周りを見る。青い空が広がっていた。

 雲ひとつない、透き通るように青い、言い変えれば気持ちの悪いような青色の空。

 透き通る、空。それが、この青い空のごく普通の姿。

「空を、見ていますか?」
 一人の男性が彼に尋ねた。
 唐突な、話の始まりだった。自分はただ相槌を打つだけしか出来ないような内容だった。だが、それでもしゃべり掛けている男性は満足しているようだった。
 それで、いいんだと思う。この人は、それを求めたんだろう。彼に。

「私は、貴方より先にこの世界からいなくなります。貴方は、私より後に生きる事になります」
 男性が、彼にそう言った。
「それは、わかりません。もしかしたら、私は今すぐ倒れ、死ぬかもしれない。後の事は私にはもちろん、あなたにもわからない。決め付けることは、よしたほうがいいでしょう」
 彼は、頑固だった。

 自分の思いをにじられた様な、そんな感覚があったのかもしれない。
 何も発言しないようでは、自分以外の他の人に伝わる事はない。彼自身が一番よく知っている事なのに。

「貴方は、いい人ですね」
 男性は、そう言った。あまりにも唐突過ぎる発言のタイミングだった。
 別に自分はいい人だとは思っていない、と彼は返答するが聞き入れはしなかったようだ。

「それはまあ、人にもそれぞれのことです。私は貴方がいい人だと思った。それでいいではないですか」 
 彼は、その言葉で無理やり納得しておこうと思った。
 確かに、あの男性は自分ではないのだから。

 自分でなければ分からない事だらけだと言うこと。それも分かっていたはずだった。

 男性は、一度頭を下げた後。
「ありがとう」
 そういって、彼の前から姿を消した。

 彼は、何だったのだろうか。恐らくもう、会わないだろうか。

 いつか会う事は、考えもしないだろう。

――人は、誰かにでも些細なものでもいい。 何か伝えれるものを捜しながら、生き続ける。

 

       

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