Neetel Inside ニートノベル
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 そんな砂糖を入れたコーヒーのような部屋に机が置いてあり、机の上には私の手によって訳されるべき英文が乗っていた。
私は辞書の中から「rewire」を探し出そうとしていた。
でも「rewire」はどうしても見つからず、代わりに「revolution」が見つかった。
そして、何故「革命」という日本語は日常生活であまり使われないのに、「レボリューション」という英単語はこれほど浸透しているのだろう、と考えた。
そして思考はあっちに飛んでこっちに飛んだ。
頭の中で私はイカが足の踏み場も無いほど敷き詰められた市街地を走り回り、眼球から生えた赤い糸の針葉樹を指が六本生えた右手でもぎ取ろうとした。
私は自分が理不尽な強い眠気に襲われているのだとようやく気づいた。

 こうした理不尽な眠気の対処法を、私は経験上知っていた。
電気を消して、ベッドの中に入ればよいのだ。
すると、あまのじゃくに眠気は去り、頭はすっきりとする。
そうしたらまた起き出して電気をつけて改めて英文を訳せば良いのだ。

 しかし私はそれをしなかった。
頑張れば出来るけど、しなかった。
私は私の部屋を汚いままにしておくのと同じような感覚で、眠りについた。
そういえばもうすぐ冬休みだな、と考えながら。


 
 目が覚めると部屋が明るかったので、もう朝なのか、と思った。
しかしそれは勘違いで、ただ電気がつけっ放しになっていたから明るいだけだった。
現に時計を見ると三時四十七分だった。もちろん午前の。
私の眼前には依然として訳されるべき英文があり、私の背骨は痛くなっていた。
すると私の頭も痛くなっているような気がした。
私は風邪を引いたのではないか、と疑い、風邪を引いてなければ良いが、と心配した。

 結局「rewire」を諦め、改めて眠りにつくことにした。
カーディガンを脱いで毛糸の靴下を脱いで電気を消してベッドの中に入った。
私の頭の中には「rewire」の綴りがあり、「revolution」の綴りがあった。
私は、自分の中にもう眠気がないことをようやく思い出した。

 私はベッドの中で、学校のことを考えて、ベクトルのことを考えて、森博嗣のことを考えて、戦闘機のことを考えて、ファイナルファンタジーのことを考えて、たったひとっつの冴えたやりかたのことを考えて、さよなら絶望先生のことを考えて、フランツ・カフカのことを考えて、もし母親が突然カエルになったとしてそのカエルを愛すことができるかどうか考えて、土屋賢二のことを考えて、公務員のことを考えて、自分の将来のことを考えて、本気で努力するということについて考えて、来年から通う大学のことを考えて、微分積分のことを考えて、朝起きることを考えて、そういえばもうすぐ冬休みだということを考えた。
そして現に、もうすぐ冬休みだった。
真っ黒だったカーテンが少しだけ水色になり始めて、あぁ、眠りたいなぁ、と私は思った。
私が眠りにつけたのは、そろそろベッドから起きようかなぁ、と考え始めた頃だった。たぶん。

       

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