Neetel Inside ニートノベル
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 蛍子は「私もある」と言って、蛍子が初めて人を殴ったエピソードについて話した。
蛍子が小学三年生の時、「百円おじさん」と呼ばれる頭のまともじゃない中年男性が小学校近辺に出没するようになったという。
百円おじさんについての情報はこうだ。

・常にあてどもなく歩いている。
・人を見かけると「百円ください」と話しかけてくる。
・百円をあげないとどこまでもついてくる。
・百円をあげると「二百円ください」と言ってくる。
・二百円あげると今度は四百円を要求してきて、倍々に要求する値段が上がってゆく。
・どんなに金額が増えても、計算間違いをすることなくきっかりと倍の金額を要求してくる。

 蛍子が百円おじさんに出会ったのは、蛍子の姉の誕生日だった。
お菓子を買いたいのを我慢して、姉の誕生日プレゼントにシャープペンシルを買って帰る途中に遭遇したのだ。
初めは無視していたのだが、百円おじさんの「百円ください」の声の張りがだんだんと大きくなっていくのに我慢できず、蛍子は百円おじさんの顔を思い切り殴りつけて、ポケットの中の十八円を投げつけて、走って逃げた。
その日を境に百円おじさんの出没情報は一切途絶えた。
という話だ。


 百円おじさんの話をし終えたあたりで蛍子の携帯電話が鳴り、蛍子は携帯電話に向かって来週の日曜日の話をし始め、私は黙って隣を歩いた。
その間に私は自分が小学三年生だった頃のことを考え、小学校のひんやりとしたタイルの床のことを考えた。
そして小学校のひんやりとしたタイルの床に嫌というほどまともに後頭部を打ち付けた時のことを思い出した。
そしてその時のプールに溺れて息が出来ないような感覚と、後頭部を伝わって鼻の奥のほうにまで染みてきた痛みを思い出した。
人を初めて殴った時のことは思い出せなかった。
でも柔らかい頬を強烈に殴打した拳の感覚のことは思い出した。
蛍子は携帯電話をポケットに入れて突如有栖川有栖の話を始めた。

       

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