自分流自己満足短編集
ゆめのゆめの
始めはどんな夢かは忘れたが、とにかくベットの上で寝ている夢を見ている自分に気が付いた。これはしめたと思い、夢から覚めないようにじりじりとローリング法を試した。ローリング法とは明晰夢の導入法であり、このような状況で寝ている体を任意に横回転させるという一番オーソドックスかつ簡易な方法である。夢だと自覚してると書いたが深層意識ではこの状況を夢か現かひどく曖昧で、意識では夢だと分かっていても無意識では本当に夢なのかと、とても疑っていて、その疑問は夢の自由化に制限を掛けてしまうことになる。その無意識の疑問をこの方法で解決することによってただの夢を明晰夢に変更することを可能とする。現実だとベットの上で右方向に二回転もすれば私はベットから落ちてしまうが、夢の中では必ずしもそうではない。延々と転がり続けることが可能になる場合もあったり、逆にあるはずの無い壁が出現しこれ以上転がることができないということもある。結果は様々だが、ここで重要となってくるのが「ベットから落ちていない」という事実だ。その事実から今自分が夢を見ている事に心から確信し、自由化の制限が解除される。とにかくこれが私の夢のバイアス下でのローリング法を用いた明晰夢の入り方だ。話を戻すと先ほどの夢でローリング法を実践した私は見事にベットから落ちてしまった。もう少し転がると積んであった本の山に突っ込み、崩れ落ちる。後日談になるが、実は私はこの時「実は起きていて寝ている夢をみていると勘違いする夢」を見ていたのだ。しかしながらベットから落ちることによって当人にとってはここは紛れもない現だと半ば強制的に認識させられることになる。そうして私は夢ではなく現実だったことに対し落胆し、散らばった本を積み直し再びベットの上へ横になった。しばらくすると先程と同様の感覚に陥った。自分は今夢を見ている。「ベットの上で寝ている夢」を見ていると気が付いた。事実、これは「ベットの上で寝ている夢を見ていると思っていたら実は起きていて、再び寝直すとベットの上で寝ている夢を見ていた夢」だ。今度こそと意気込みながらも集中して、じっくりとローリング法を行った。落ちた。まるで現実かの如く私の体はベットから床へと落ちてしまった。やけになり、勢いをつけて転がり続けると作りかけだったプラモデルの箱にぶつかり、ランナーの切れ端が口いっぱいに入った。私はそこで現実との矛盾に気が付いた。確かに寝る前に部屋の隅でプラモデルを作っていたがそれで生じたゴミの類は寝る前に全て捨てたはずだ。つまり口の中にランナーの切れ端が入ること自体、夢でもない限りあり得ない。さらに転がると部屋の隅だったにも拘らず再現なく転がることが出来た。これにて疑いは確信へと変わり、見事に明晰夢へ入ることができたのだった。明晰夢の詳細はここでは伏す。欲望に忠実な私が見るものだ。酷く低俗なものである。というのもこの時点では明晰夢の詳細な内容は思い出すことはなく、ただそういうものを見たという大雑把な記憶だけが存在していた。時が過ぎて私は夢から目を覚ますと、部屋中に酷い悪臭が漂っていた。何事かと半身を起こして部屋を見渡せば壁や床は糞尿に塗れていた。ここでまず断っておこう。明晰夢の詳細は低俗なものと述べたが私はスカトロジーな性的嗜好は持ち合わせていない。繰り返すようにだが明晰夢の内容はごく一般的な性的嗜好を持つ男性の妄想位の内容で変態生理学の分野に傾かないものだ。自分の下腹部を探るとどうやらこの部屋中の一連の汚物の原因は私であることが判明した。悪臭に耐え切れず部屋を出ると私の家族と友人が槍のように飛んでやってきて、この有様は一体どういうことか説明しろと一斉にかかって来る。この時に自分の中で曖昧になっていた明晰夢の内容が少し戻ってくる。確かに俺は今まで寝ていた。この部屋を舞台に明晰夢を見たがこんなことをした覚えは無い。まず、夢と現がリンクする訳無いだろうと。そう自分に言い聞かせるようにして説明をしていると私の中で一つ疑問が生じた。昨晩の明晰夢の導入だ。導入の段階で脳が自分が知りうる事実を完璧に構成した場合に、たとえそこが現ではないと疑問を持ちローリング法で真偽判定を行った場合、判定は現とでることもあるということだ。ならば反対もあり得るのではないか。自分が明晰夢と感じていたものは夢ではなく本当は現の出来事だったという可能性だ。いつしか私は精神的な障害を患い、夢と現が判別できない人間になっていたのかもしれない。そう考えた瞬間に視界が歪む。感情の起伏がとても激しくなり自分の伝えようとしていることが上手く伝えられない。全ての声と意思が意味の無い嗚咽に出力される。自分はこんなことを絶対にしていないこと。自分を疑うあなた達にとても怒っていること。同時にとても悲しいこと。それらが全てが意味の無い咆哮になる。彼らは私の言動にひどく呆れた。またか。また始まったか、と。そうだ、私は始めから頭が変だったのだ。精神障害を有する身ならば、夢と現を混同して奇行をしていたのにも理由がつく。泣き叫ぶ私がいるものの、そう現在の私を冷静に客観視する私がいた。そして客観視をしている私は自分はもう駄目なのだと理解した。これが夢ならどれほどいいだろう。そう思い彼らの前で横になりごろごろと転がった。結果は彼らに深い溜息つかせることに終わった。そこで私は目が覚める。とても現実味があり不愉快な夢だった。だが夢で良かったと心から安堵した。寝巻きは汗で濡れ、背中に不快な感触を与えている。まずはシャワーを浴びよう。そう考え半身を起こそうとするが、全く動かない。金縛りだ。耳鳴りがひどく、まるで耳元で巨大な鐘ががんがん打ち鳴らされているような感覚だ。そして私はベットの上で寝ている夢を見ている自分に気がついた。
おしまい