Neetel Inside 文芸新都
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バタバタと母親が玄関へ駈けていく。私はゆっくりと茶をすする。真にうまい緑茶は苦くないのである、と、母は言う。もちろん、家の緑茶は非常に苦い。

玄関で母と誰かの話す声がする。いったい誰だろう?
母親が玄関の方から私を呼んでいる。
「貴理子ちゃんよ。」
貴理子、はて、貴理子とは誰だろう。そうか、隣の家の女子高生で私と同級生の娘である。一週間ぶりに私がここへ戻ってきたのを誰かに聞いたのだろうか。私はしぶしぶ玄関へ行く。そこには貴理子がたっていた。
「あら、龍一、あんた心配したんよ。またどっかほっつき歩いて。」
「いや別にほっつき歩いてる訳じゃない。」
「まぁた訳の分からん事言って、おばさん心配させちゃいかんでしょう。」
余計なお世話だ。私は貴理子の屈託の無い笑顔に無性に腹が立った。無意識のうちに怒りの表情になっていたのだろうか、貴理子と母親が私をおびえた表情で見つめている。それに気づいて、私は無理矢理に笑顔を作ったもんだから、もっと恐ろしい表情になってしまい、貴理子は凍り付いたようにその場に動かない。母親はそそくさと逃げるように居間へ飛んでいった。

「あー、いや、ああ、心配かけてすまん。」
なんとか自然、だと思う、笑顔を作って私は言った。
「うん、元気そうで何よりだわ。」
貴理子も笑う。可愛い。でもそれに腹が立つ。
私は根性がひん曲がっているのだろうか?
「私、前に会った時よりどこかかわっていると思わないかしら?」
「服がスウェット?」
「そりゃ、あんた、この前会った時は学校でしょう。」
「そりゃそうだ。」
じっと貴理子を見つめる。貴理子は恥ずかしそうに顔をうつむかせる。なんだこいつは、別に私はそういう気持ちを貴理子に抱いていない。

       

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