Neetel Inside ニートノベル
表紙

女と男・天使と悪魔
活路と敗北

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カイムたちは椅子に座り、その前を春がうろうろしている。春はカイムたちの顔をまじまじと見ているが、時々男の顔と気づいて、気分が悪くなったような顔をしている。
(こいつ・・・行動がむかつくが強い。
 いまもこうやってふざけながら確実にこちらの行動をうかがっている。
 俺は何もできない。祈ることしかできない。
 それでいいのか?俺は何もしなくていいのか?
 いつも話しかけてくるのは春の方から。俺たちはいつもそれを受ける側。
 いや、こんなんじゃだめだ。俺から話しかけて、春を勘違いさせる!
 それが、この座る側の一番大切なことだったのか。
 そうか!さっきはそれをしないから負けたんだ。
 これで勝てる。俺から話しかけて春をゆさぶって、勘違い、そしてミス!
 これしかない。これだ!これだ!)
ひとつの巧妙のように見えたこの作戦。しかし、それは違った。この作戦は確かに相手を揺さぶれるかもしれないが、下手をしたらその話し方からこちらが読み取られるかもしれないという荒業。ハイリスクハイリターンである。しかし、それに気づかずにカイムは話しかける。
「なぁ、春。」
「ん?何?」
「俺のところは・・・・ストッパーがないぜ。」
「え?いきなり何教えてくれちゃってんの?」
核心!いきなり核心!このゲームの核心をピンポイント!これにはさすがの春も驚く。しかし、それはカイムたちにとって悪い意味をなしていた。
「どうせうそでしょ?これでカイムのところにないのは決定ね。」
この言葉にカイムは焦る。
「おいおい、ちょとまてよ。何言ってんだ?どこからどう推測してそれが確定するんだ?
 わけわかんねーよ。」
「あんたバカ?本当にそこにストッパーがないというなら、
 わざわざ疑われるようなことする?普通はしないでしょ。
 ひっそりと身を隠すべきでしょ。」
「お前のほうがバカだな。その裏もあるだろ?
 そうやって思わせておいてその逆というのもあるだろ?」
「確かにそうだけど、今回は席が悪すぎる。」
(え?どういうことだ?席?俺の席は3kgの下。
 あ!あああああ!!!!)
「その顔・・・やっと気づいたみたいね。
 そう、確かにその裏もあるが今回は3kgの席。
 当てられたときのリスクが大きすぎる。だからその発言は大嘘!」
「いや・・・だからこそあえて3kgの下かもしれないという考えはないのか?」
「確かにそれもあるけど、それなら今のところで話すのやめてるでしょ?
 ほぼ身の安全が確保されたんだから、
 わざわざ自分から疑われるようなことは言わないでしょ?」
そう、春にはすべてを見透かされていた。このゲームの経験値の差は大きい。そこら辺のゲームのしたことがあるないとはわけが違う。なぜなら、やったことがないものにとっては、これは異常事態。予測不能の異常事態。これに対する対処など普段まったく考えていない。しかし、経験者は違う。普段から次回に備えて考えることができる。
「さあ、あと二つ・・・と、言いたいところだが、さっき確定した。
 アスラン、お前のところだな。」
「!!!!な、なぜそう思う?一度も話してないじゃないか!」
「いや、話さなくても見ればわかる。
 カイムと話してる様子をみて、お前がどんな反応をするのか。
 それをみていればおのずとわかる。それにさっきのあっけにとられた反応。
 明らかに図星の証拠だ!さて、ロープを切るとするか。」
春が歩いているとモロクがしゃべりだした。
「待て!僕だ!僕のところはストッパーがない!」
「はいはい。必死すぎるとこがうそ臭い。」
「ちがう!ほんとだ!うそじゃない!僕の目をみてくれ!」
「いや、男の目とか気持ち悪くて見れないから。」
「くぅ~!」
「それじゃ、2回戦終わりと。」
バチン!


カイムたちは必死にあがいたが、また負け!二連敗!これではもう勝ちが厳しい。アスランも身体的ダメージはさほどでもないが心が弱っている。アスランが、というよりはカイム側全員がよわっている。それはギャラリーにいる咲にもいえることだった。
(なんで?なんでこんなことしてるの?
 普通こんな一方的にダメージが与えられるなんてありえない。
 どうして?どうしてカイムは傷つかなきゃいけないの?
 子供のころからずっとカイムは傷つき続けているのよ?
 もういいじゃない。神様はいったいどこで何をやってるの?
 こういうときに助けてこその神様じゃないの?)
「神様・・・もうこんなことやめさせてよ・・・」
咲は心の中で思っていたことをつい声にしてしまった。それに対してカイムが返す。
「咲・・・神様なんていねぇよ・・・
 それにいたとしても関係ねぇ。
 信じるべきは神でもないし、天使でもない、仏でもない、先生でも、親でもない!
 自分なんだよ!俺は俺の力を信じきって俺の力で勝つ!
 人に頼らない!無頼だ!自分で大切なものは守って勝ち取るんだ!
 だから俺はあきらめない。まだ勝ちの目が残っているのだから・・・・」
「カイム・・・・そうだね・・・
 絶対勝って、また明日も教室で会おうね。」
この会話周りからすればカイムが咲を励ましたように見えたが、実は違う。カイムもまた、励まされていたのだ。人を励ますことによって。自分も励まされていたのだ。回りは気づかない。でもカイムはさっきまでの暗いオーラをまとっていない。どこか希望があるような、まるで野球の9回裏3点差で1アウトランナー無しでバッターボックスに立つバッターのような感覚。なにはともあれ、カイムは復帰した。そして3回戦の席を決める。
「なぁ、今度は3kgのとこをあけていこうと思うんだがどうだ?」
「カイムさんがそういうなら異存はありません・・・
 俺たちは考えてもムダなんですから。」
「私もカイム殿にまかせます。さっきみたいにみ破られてしまいそうなので。」
「みんな、ありがとう。
 今回はモロクに3kgの下にストッパー無しで座ってもらう。」
「!!ちょっ、待ってくださいよ。そんなのいやですよ!」
「そうですよカイム殿。それでは当てられて時のリスクが大きすぎますよ。」
「さっき任せるって言っただろうが!」
「たしかにそうですけど・・・もうすこしマシな策はないんですか?」
「何言ってるんだよ。これが最善の策だよ。」
「なにを根拠に言ってるんですか?カイム殿。
 3kgなんて一番ある話ですぞ。
 これまでに選べなかった3kgを選ぶなんて・・・
 裏をかこうとすればかなりの可能性で選ぶ選択肢ですぞ。
 何でそんなものを・・・・」
「理由は簡単。だからこそ選べない。それに座っているのがモロクだ。」
「どういうことなんですか?カイムさん。」
「さっきモロクはやたら騒いで興奮していた。
 それが続いてるとしたら、俺がそんな重要な役目を与えるはずがない。
 それにもともとモロクはポーカーフェイスが苦手だ。
 だから春は考えもしない。
 モロクは今現在春の盲点にいるんだよ。」
「た・・・確かにそれならいけるかもしれませんぞ・・・・」
「うぅ・・・・わかりました・・・・カイムさんを信じます。」
モロクは恐怖で泣きそうになっていた。しかし勇気を振り絞った。そしてカイムがモロクのかたに手をポンと置く。
「大丈夫さ、絶対にいける。
 これが終わったら漫画の1・2冊ぐらい買ってやるよ。」
「カイムさん・・・ありがとうございます。」
「なにいってんだよ。これからがんばるんだよ。」
「さぁ、いくぞ!」
「はい!」


ついに3回戦のオーダーが決定!カイムたちは負ければあとがない。しかし、ここで勝てば一気に流れはカイムたちのもの。いわば天王山!勝負の分かれ目!
そしてカイムたちが席につく。



鉄アレイの重さ    1kg   2kg   3kg
座る人        カイム   アスラン   モロク
ストッパーの有無    有     有     無



春はこの選択に少しばかりか驚く。
「へ~ついに腹をくくったんだ。
 3kgのとこをストッパーなしとは驚いたね。」
カイムたち、このセリフには衝撃!
(うそだ!うそだ!うそだ!なんで?なんで?なんでわかるんだよ!
 これも揺さぶりなのか?そうだ!そうに違いない!そうであってくれ!)
しかし、カイムの願いは通じない。春はきちんと考えてモロクのところにストッパーが無いといったのだ。
「あ~あ、これでもうあとがなくなるね。どうすんの?」
(やばい!やばい!やばい!やばい!これではモロクが平常心を保てない。)
当然モロクは焦る!震えだす!そして春はモロクのロープにハサミをかけた!


       

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