Neetel Inside 文芸新都
表紙

どうやら愛玩動物らしい
出会い

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そうだな……昔話をしてやろうか。
ある男の子には愛玩動物がいました。
だけどその男の子は寛大でした。
このありえないけれどありがちな話は男の子の愛玩動物を軸に始まります。
いわば男の子は愛玩動物に愛玩されているということでした。
ん? ああ、愛玩動物と言うのはペットの事だ。
えーとどこまで話したっけ? そうそう愛玩されているとこまでだったな。
そして……え? このお話のタイトル? ああ、それはもう決まってるよ。
「俺は愛玩動物」

     

俺は今日も樹海にいる。
何故かとかそういうのは聞かないで欲しい。
いつもどおり見慣れた樹の目の前に立ち近くにある切り株に座る。
切り株が何故あるかは知らないがここが俺の特席だ。
内ポケットから煙草を取り出し火を点ける。
腕時計を見ると午前三時だった。
ぼっーと煙草をくわえながら目の前の樹に吊るしてある縄を見る。
とりあえず人間の頭一個分入る。下には台がある。
まぁ、先着は誰もいない。というかいるわけがない。
人生最後になるであろう煙草をよく味わいながら立ち上がる。
腹括ろう。うんそうしよう。
台の上に立ち縄を首まで通す。
「生涯24年か。我人生悔い無し……」
とはいえ、中々決心がつかない。
さっさとこの台を蹴り飛ばせば良いんだけど。
……畜生怖いなぁ。
やめよう。あまりの恐ろしさにまたやめかけたが、俺の天使が囁く。
いやでも何回此処にきたと思っているんだ。
そうだな。もうここらで終りにしよう。そうおもって今正に天国へ導く天使の囁きに応じて台を蹴り飛ばそうとしたが今度は悪魔が囁いてくる。
いやいや。でも怖いものはしょうがない。
すごく優しい悪魔さんだ。けれど生きてても苦しい事ばかりだから死のうと思っているわけだからそれをやめさせてまた苦しめようとするだなんてやっぱり悪魔には違いないのだろう。
けれどもここは俺のビビリなマイハートが悪魔の囁きに負けてしまった。
悪魔の言葉に甘える事にした俺はやめようと縄に手をかけた瞬間。
「早まってはいかぬぞ雑種!」
ふいに誰かに後ろから突き飛ばされた。

     

後ろから背中に衝撃を受けた事によりふらついてしまった俺は台の上から足を滑らしてしまった。
慌てて台の上に脚をかけようとしたが、誤って逆に台を蹴飛ばしてしまう。
ガシャンという音と共に台は倒れた為に脚が宙を舞う。
「あっ」
後ろからさっき俺を突き飛ばした思われる奴の間抜けな声がした。
意味がないとは知りつつも俺の足は宙でばたつく。
「た、たすっ……たすけっ……」
助けを求めるが首が絞まっている所為で上手く言えずさらに俺の脚は虚空と踊る。
あ、死ぬな。そう思うと意外に心に余裕が出来た。これが無我の境地と言う奴か。
徐々に薄れゆく意識のなかで俺に様々な記憶の走馬灯が……別に流れなかった。しかしひどい人生歩んできたもんだと自嘲するがこんなこと寧ろ自重したかった。親の顔すら浮かばないがまぁそれは不可抗力と言う奴だろう。
段々と暗くなっていく景色を見ながら俺は意識を失っ――
ブチッ
次の瞬間足を挫いた為仰向きに俺は無様に倒れる。背中に鈍痛が広がり顔をしかめているとひらめいたように気付いた。
「いって……はっ!?」
い、生きてる? 生きてるのか俺!?
頬をつねる。ああ、痛い。素晴らしい! 痛覚とはこんなにも素晴らしいものだったのか。感動した。
奇しくも縄が古いのが幸いしたようだったが俺にはそんな事を考える暇などなかった。
「痛い! 生きてる……生きてるぞ俺!」
だただあまりの喜びに感無量になった俺は涙を流していた。
「ふむ。生きておったか。よきやよきや」
上から女性の声がしたので見上げるとパンツが……見えなかった。
誰だこいつ。涙を拭って凝視する。すると奇怪な点がいくつも上がってきた。
アレだ。まず格好がおかしい。神社の巫女さんが着るアレをつけてる。次に耳がある。耳だ。頭の上に狐の耳がある。最後に尻尾がある。狐の尻尾だ。特にこれが不思議だ。一体どこから生えてるのだろう。服に穴でもあるのか。まさか……服に尻尾がはえているのか!
想像してしまった俺に笑いがこみ上げてきたが不意に思い出した。
っていうかこいつか。俺を押したの。
思い出せばふつふつと怒りが湧いてくる。
「お前だろ俺を後ろから押したの!」
ぴょんととびおきて狐娘と向かい合う。
「はっはっはっ。気にするでないぞ雑種。わっちの手を汚したと思っておるのだろうが、なに命の恩人にそんな感情を持つほど小物ではないぞ」
わっはっはっと豪快に笑い飛ばす狐娘。何を言っているのだこいつは。
こいつ俺の言う事聞いてねぇな。というかそもそも会話が成り立っていない。言葉のキャッチボールが出来ない病気なのだろうか?

     

然しそれにしても命の恩人ってなんだろう。
「おまえな人を殺そうとしておいてよくもまぁぬけぬけとそんな戯言が吐けるものだな」
「何を言っておる。わっちはお前を助けようとして結果助かったのだ。そもそも何故わっちが雑種といえども恩人を殺す必要がある。」
いちおう会話は人並みとまでいかなくともできるようだ。
しかしさっきから雑種とぬかしおって、頭に来る女だな。
しょうがない俺が折れてやるか。俺は寛大な心をもっているからな。
「ところで恩人と言っているけど俺は君の事なんて知りません」
「わからぬか? 絶対におぬしなのだがな。饅頭をよこしてくれただろう?」
饅頭? 饅頭でなんで命に恩人になるんだ? あれか、饅頭食うと元気百倍になるのか。
あれ、饅頭? 心当たりがあるな。
そういや今日絶対死のうと思っていたから偶々近くにあった廃れた神社に供え物したなぁ。
しっかし誰もいなかったけどなあの神社。廃れてたと言うよりは廃墟の方が正しいもんな。
まさか……もしかしてメルヘンチックだとは思うが既に狐耳を見ているあたり捨てがたい。いや、むしろそうだろう。まさかあなたは、
「カミサマ!?」
「はっはっはっ! わっちが神だと? 中々面白い冗談を言う奴だな」
なんで笑われるんだよ。おまえ狐耳だぞ。おかしいのはおまえだろ。
じゃあなんなんだよ。これはあれか。俺の妄想か。って普通それが正しいんだけどさ。
「わっちは狐だ」
「狐ですか」
「うむ。狐だ」
そう言って彼女は饅頭について語りだした。
まぁ、要すると長らく誰もおそなええせず、腹が減っていたところに俺が饅頭をそなえたと。
「まぁ、この際何でも信じよう。幻覚でも夢でもいいし妄想でもいいや」
「言っておくがこれは現実ぞ」
とんだユカイな現実あったもんだな。
まったく。
「どうでもいいけど。俺は死にたいんだけど」
「おぬし今生きてる事喜んで他ではないか」
「んなこといわれてもなぁ」
「やれやれ。おぬし少々不可解だな。流石は雑種と言ったところか」
狐娘が肩をすくめた瞬間ぐ~というなんとも間抜けな音が響いた。
……気まずい。
「ふむ。腹が減ったな。ひとつ腹ごしらえでもするとするかの。おい、なにをぼっーと突っ立っている」
「まて、何が言いたい」
「わからぬのか。脳足りんな奴じゃの。おぬしがわっちに饅頭を食わせるのじゃ。おぬしの家でな。ああ、あと一眠りしたいの。」
ちょと待て。
何を言っているこいつは。俺の家で饅頭を食う? ホワイ? なんで?
「無理だって。狐娘といっても女の子だぞ……」
「ならペットとということにすればよかろう。これほど譲歩しているのだ断る事はあるまい? うん?」
ちょと待て。
おかしい。
色々と。
何が起きているんだ。
「ああ、一つ言っておくのを忘れた。おぬしさっきわっちを神と称したな。アレは別に間違いではないぞ。」
なんだこいつ突然。今混乱してるんだ後にしてくれ。
「わっちはおぬしらの言うところの祟り神じゃ。要は人食い狐ということじゃな。饅頭以外に代えはきかぬぞ。あるといえばおぬしくらいなものな。はっはっはっ!」
豪快に笑い飛ばした狐娘はそのままずんずんと俺のいえの方角へ歩いていく。
取りあえずこうして俺とこの愛玩動物との同棲が始る訳だった。

       

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Neetsha