――ガシャン。
長テーブルの向こう側、姉のいる席から一際大きな音が響き渡る。
「まずいわ、何なのこの淡泊な味付けは」
「そうおっしゃられましてもお嬢様、お体に障ります故、ご辛抱くださいませ」
若い有能な娘が凜々に頭を垂れる。
「――フ、へぇ……何から何まであの方の好みってわけ? ねえ、時に綾女」
「はい、何ですか、お姉様」
「この家にお父様はいらっしゃるのかしら」
「いいえ、ここに越してくる前にネパールへ商談に出かけたままです」
そう言えば、一週間で戻ると言っていたのにもう数ヶ月も経つ。
「じゃあ、ここの家人は新入り?」
「ええ、ここに越したのと同時に新しく雇った者達です。皆よくしてくれています。
どうされたの? 最近のお姉様は何だか気が立ってるように見えるわ」
「なるほどねぇ」
私の言葉は無視し、姉は今まで見せたこともないほど唇を歪めて、笑った。
それから深夜になると、姉の奇行はまたも続いた。
「お嬢様っ! お体に障ります!」
「うるさいっ。どけ!」
「きゃっ――」
どんどんどん。
私の部屋を大きく叩く音は、間違えれば姉の腕が折れてしまうのではないかと思うほど大きく鳴り響いた。
そうならなくても怪我を召されては一大事なので、私は眠気も吹き飛びベッドから飛び起きた。
「お姉様、どうしたの?」
扉を開けると姉はしてやったりとした顔で私の腹に何かを突き立てた。
「――え?」
今まで一度も全力で走ったことすらないような姉が、私に全力で体当たりをしてきたようだ。
激痛が下腹部に走り、私はその場で蹲ってしまう。
「きゃぁあ! 綾女、しっかり!」
果物ナイフで刺され、全治三週間。
しばらくは排泄も困難なほどに陥った。
事故か故意かはうやむやになり、結局使用人が無闇に追い立てたせいで事故に繋がったとしてこの出来事は収まった。
しかし、私の脳裏には部屋を開けたときの姉の顔がついて離れず、私は次第に姉が恐ろしく見えてくる。