「タクヤ、お前にはもっと凄い力があったんだぞ。それを忘れているんだから、どうしようもないが」
鈴音は恐らくトラックが光の速度で衝突してきても毛一本と抜け落ちないだろう。
それ以上の力が自分にあるなどとは到底信じられる話しではない。
「鈴音は大丈夫だろうけど、僕と綾女はどうなる?」
「鈴音にその力を使ってもらえ」
「え? そんなことが出来るのか?」
「できるよ」
それじゃ、無敵じゃん……。
しかし、現実はそう甘くはなかったと鈴音の一言で思い知る。
「あ、そうそう。この力は皮膚一枚の防護服だと思って。
毒ガスとか水の中に沈められると死んじゃうから」
「そうなんだ、って!」
そういうことは早く言ってくれ、と言うのも束の間、綾女の屋敷まで着いてしまった。
空は薄暗く変わっており、ナミ、鈴音、タクヤの三人はその屋敷とも言える巨大な建物を前に言いしれぬ威圧感を感じていた。
「どうぞ、お入りください」
綾女は先陣を切って出た。
物静かな屋敷に鍵はかかっておらず、その扉はすんなりと開いた。
「おかしいですね……誰もいないのかしら」
綾女は怪訝な顔をして辺りを見回す。
しかし、そこに人影と呼べるものは見当たらなかった。
――ギィ。
どたんと大きな音がして振り返ると、そこに開いていたはずの扉が閉じている。
「誰か閉めたのか?」
押さえがなくても開いたままの重い扉がそう簡単に閉まるとも思えない。
鈴音が前へ出て、扉を押してみる。
「だめね、鍵が掛かっているっていうよりは壁になったみたいに動かないわ」
「閉まった衝撃で蝶番が壊れたのかしら……」
綾女も押してみるが、その扉はぴくりともしなかった。
「まあ、いざとなったら窓から出ればいいよ」
タクヤは自分に言い聞かせるように皆に言う。
「仕方ないわね」
一行はそれで納得し、エントランスから通じる階段を上っていった。
「お姉様――! 誰か――!」