質素な部屋には生活に最低限必要なもの以外は何も無かった。
気がついたら寝ていた、そんな感じでタクヤは目を覚ます。
「あ、気づかれました?」
疲労感はそこそこあったのか、体は重くその声に反応するのに数秒かかる。
「――ああ、今何時?」
「朝の十時くらいです、丸一日寝ていましたよ。亜夕花さんも心配していました」
麗未は誰かに似ている気がするが、それが思い出せない。
銀色の壁が横へスライドし、白衣の少女が入ってきた。
「おお、起きたかタクヤ」
「たまに本当の親父か疑いたくなるよ……」
亜夕花はタクヤの母親、自分の妻をDNAレベルから分析し、己の肉体に還元した親父だった。
もはやそこまでいくと、どこに自分があるのかなど愚問でしかないだろう。
「学術者である以上はあらゆる世の混沌を研究したいからね。
そもそもここが美少女以外立ち入れないという都市伝説にしたのはタクヤ、お前だぞう」
「はは……」
亜夕花は聴診器をタクヤの胸に当てながら特殊な装置をタクヤに取り付けたりしていた。
「何してるんだ?」
「検査だ。お前は間違ってとはいえ五十年もタイムトランスした、
これは本来であれば細胞を粒子レベルまで分解し、
再び再構築するというような次元でしか不可能な出来事。
肉体が何らかの損傷を受けていても決しておかしくない」
検査が終わったのか亜夕花はテーブルの椅子へと腰掛け、
何やら携帯していた端末に打ち込んでいた。
すると麗未がお膳に色々と茶碗を乗せて運んできた。
「お口に合うか分かりませんが……」
「ありがとう」
考えてみれば腹はかなり空いている。
煮付けや和え物と朝の料理とは思えない絢爛さだったが、
タクヤは黙々と食べ始める。
「食いながらでいい、聞いてくれ。
体の方に異常はなかった、恐らくトランス後の披露状態だったのだろうな。
問題はそこからだが、現在見ての通り、街は廃墟と化している。
原因はもう聞いたとおり、怪物の仕業だ」
「おいしいよ」
「ありがとうございます」
タクヤは麗未の視線に答えていた。
「……」
「いいよ、続けて」