「もう一度、タクヤ。お前の想像力を使うしかない」
「どういうことだ?」
亜夕花は施設の通路を幾ばくか歩いてエレベータへと乗り込む。
そうしてさらに深層へと二人を連れて行く。
「麗未が今イマジンクリエイトを使えるのはタクヤに与えた薬を再現したものなんだ。
しかし、その再現率は残念ながら百ではない……」
生命体の具現は出来ないということや、
漠然としたイメージに加わる補正が少ないことなどが上げられる。
そのどれもが、タクヤにとってははかりきれないことだった。
「足りない部分を補うのはこの薬だ」
「何故それを使わなかったんだ?」
プレートクローシュに置かれた薬剤はカプセルにはいって侘びしい雰囲気を醸し出している。
「麗未の想像力に限界があるからだよ」
麗未は少し俯いたようにすると、済まなさそうに萎縮した。
「別に責めているわけではない。持って生まれた天性のものが大きいんだ、
特に想像創造(イマジンクリエイト)は」
特に――?
タクヤは不可解な言葉を聞き流しながらも部屋の最奥、白い壁で囲まれた空間へと出た。
「ここは?」
「想像制御室(イマジンコントロールルーム)だ」
天井は見上げるほどに高く、その上部には何やら球体が取り付けられていた。
「?」
「タクヤ、お前は最初に三人は無事なのかと言ったな。最後の一人はあそこにいるぞ」
天井を指さす先に確かに人のような姿をしたものがうっすらと認識できる。
「あいつはこういう事態になって真っ先に記憶のリカバリーを試みた。
五十年、ずっとあそこでショートした回路を修復し続けていたんだ。
まぁ、驚くべきことは彼女が実体化したホログラムであるということだったな」
辺りが不意に暗転する。
巨大な電力が動いたのか、ノイズのようなものに交じって声が聞こえてきた。
「タク――ヤ」
「ナミだ」
それは懐かしい温かみのある声だ。徐々に明瞭に聞こえてくるそれは施設内の拡張器を使ったものだった。
「お久しぶりです」
亜夕花はそれを聞いて満足そうに頷いた。