タクヤの中で、ヨメという二文字は従者という二文字に同じだった。
「ボクはお前みたいな女はいらない。だって、役立たずだからな」
タクヤはその時から親父の発明を手にしては自分の正義とするところを貫いてきた。
しかし、その正義はいつか、役に立つかそうではない者とを隔てて振るわれるようになり、
次第にタクヤの中で、存在に値する者という考えが生まれつつあった。
「なんで……? 私、たくやのこと好きだよ」
「やだ。しつこいのもやだ」
ゆうなと書かれたネームプレートにタクヤはこの名前にだけは関わるまいと幼心に決めた。
顔などどうしようもないほどの出来だったので、タクヤはそれを見ないようにする。
幼稚園を家庭の事情で移った後はそれきり、その名を聞くことはなかった。
しかし、何故今なのだ?
タクヤの中で、夢を阻害する最大の障害が、
まさかそんな幼少期にあったとは信じられない話しだ。
辺りが白く染まっていく。
――――。
がやがやがや。
一群のセミのように繁華街が、交差点が、学園が賑わう。
男と女、そこにいる全てがその二つで区別できた。
「タクヤ、朝飯だよ!」
母(亜夕花)の声がする。
「ちょっとあんたっ! また煤だらけになって――……」
夢ではない現実。多くを手に入れようとしたタクヤに訪れた原点回帰はこれはこれで相応しかったのかもしれない。
「兄さん、兄さん」
部屋の扉がノックもされずに放たれる。
「うわっ、何だよ……麗未か」
「うん、私のお気に入りのパンツ何処に隠したの?」
「ああ、それならベッドの下に――って、んなわけあるかいっ!」
パンツのないスカートに視線が釘付けになりながら麗未を追い立てる。
「って、本当にベッドの下からパンツがッ……!」
玄関のチャイムが鳴る。
「タクヤあ! お客さんだよ!」
「今行く!」
窓から覗いた玄関先に見知った顔ぶれがあった。鈴音と綾女だ。