白木と書かれたジャージは何処か懐かしい。
清々しい顔で手を振ってはいるが、
次は負けませんという一言がそのまま体現しているようだった。
「はは……」
「そういえばあの子、少し前に転入してきたのよね」
「こっちの方が強敵がいるってわざわざ名門学校から……」
なんてこったい!
あの尋常ならざる気はそういうことだったのか、とタクヤは背筋を凍らせた。
昇降口であたふたとする下級生を見る。
「何してるの?」
下級生はおろおろとしたまま、上履きが何処にも見当たらないという。
「それじゃ、これを使うといいよ」
来訪客ようのスリッパだが、ないよりはマシだろう。
「あ、ありがとうございます」
ぱたぱたと駆けていく後ろ姿は境野満子そっくりだった。
教室に入るまでに交わした挨拶と後ろの二人が怒った回数は同じだった。
「タクヤく~ん」
「あ、天水さん……」
寸分違わず天水萌々子の姿がそこにある。
何処か闇を抱えていた少女とは思えない。
今時珍しいショートを束ねた愛嬌ある髪型に鼻筋の通った童顔をしている。
「ジュースおごってほしいな」
「ま、またかい?」
仕方ないというよりは、助けてくださいと言わんばかりの気持ちだったが、
こう毎日来られるとそろそろ断る理由が必要になりそうだ。
「おい、ホームルームを始めるぞ」
登校中に色々あったおかげか、チャイムによって救われた。
「今日はお前らのクラスに転校生だ。……入って良いぞ」
がらりと勢いよく扉が開いたので、クラスは一瞬静寂に包まれた。
その蜂も逃げ出すような殺気から男かとも思ったが、
すらりとした体躯に綺麗な線の二本足は女のそれだった。
「今日からお前達のクラスの一員になる秋知結衣だ。仲良くな」
担任が目配せすると結衣は凜として正面を向いた。
「お世話になります」
別に家族の一員になるわけでもないのだから、
お世話は行き過ぎかとも思ったが、男子の反応は上々だった。