「なるほど、それが二ケツというのですね」
何やらわけのわからない質問攻めに結衣は冷静すぎる受け答えだった。
「好きなものはナイフと毒薬。嫌いなものは解毒剤です」
今時ナイフが好きな女の子ってどうなんだと思うも束の間、
男の興味は一気にそそられたようだった。
何しろ、見てくれだけは一流の美少女なのだから。
こうしてタクヤの周りは変化していったが、少し気になることもあった。
綾女の姉が入院しているということと、ナミには未だ会っていないということだ。
タクヤは学校が違うのに校門まで迎えに来てくれる麗未を連れて病院へ向かった。
「凜々さん、早く元気になるといいね」
「そうだな」
あんな綺麗な女性が一人床に伏せったままというのは気の重たい話しである。
タクヤはまだ快復の見込めない凜々の病院を訪れる。
眼帯をして車椅子を押される少女や松葉杖をついた男など。
消毒液の臭いが鼻につく。
「あら、二人とも」
待合椅子に腰掛けていたのは滝川凜々の姿だった。
病院特有の甚平を身に纏って、点滴を吊したキャスターを引いていた。
「寝ていなくていいんですか」
屋内での生活が長いせいか、白い肌は一層白くなってしまっていて線が細く、
今にも倒れてしまいそうなほどやつれて見える。
「大丈夫ですよ、今日は調子がいいんです」
「ちょっと、兄さん。緊張してるの?」
「へ、ああ」
綾女も結構な整った顔立ちをしているけれど、
凜々のそれはさらに次元を越えたところにあるような美貌だった。
ある種の艶色さが扇情的で、タクヤは顔をまともに見ていると頬が染まっていくのがわかる。
「ああって、兄さん不潔!」
「し、仕方がないだろ。お前っこの顔のどこに不備があるのか言ってみなさい!」
「お静かにしてください!」
周りの嘲笑を買いつつ、へこへこと頭を下げる兄妹。
三人は病室へと逃げるように向かった。
「ふふ、でも良かった。待合室で待っているものね」
「もうやめて下さい。兄さんの恥がさらに上塗りされてしまいます」
言われたい放題のタクヤだったが、満ち足りていた気分でもあった。