「物理的に考えてこの御剣市に来るには移動距離が存在するけど、
この顕現の早さがその仮定を裏付けていると思うの」
「早期化が矛盾を生んだ……?」
「多分……そして、その均衡を保つために彼女たちの中には能力者(イレギュラー)が生まれた可能性が高い」
タクヤが想像したのとは少し違う形になっていると思うとナミは付け加えた。
なんということだろう。あれほど良い案だと思ったのに行動力が逆に裏目にでたということだ。
せめて最初は100人ほどでテストするべきだった。
一度に70万人など、考えれば考えるほど馬鹿げていると思えてきた。
「くそっ……」
タクヤは気を落ち着かせて再び歩み出す。
「大丈夫? この状況を打破するには男性達を戻すしかないけど、
恐らく一度顕現した人外の能力はイマジンクリエイトの性質上『無に戻す、消すことができない』と思う」
「そうだな……もしナミの考えが正しければ僕は、
この街の人達は少なからずおかしな力を持った者に接触してしまうな」
タクヤは後悔の念と同時に興奮するものを感じた。それは、戦慄だ。
学園に着くと大変なことになっていた。
校門から伸びる女生徒の列。その長さは学園をぐるりと半周するほどの長さだった。
「あ、タクヤ先輩!」
校門を抜けたところに副会長、朝陽鈴音の姿はあった。
「あ、朝陽さん? これは一体どういうこと?」
「なんか意味不明なんだけど、今日になって転入生が500人きたとかで、
手続きに学園側が追われてるみたいです……、私は自宅に朝早く電話があって、てっきりタクヤ先輩も来てるかと思いました」
僕はナミを一瞥した。
「……忘れていました」
「うそだろっ」
ナミは高性能AIで動く粒子体だ。人間とほぼ同じ機能を果たす肉体を分子レベルから構築してるが、その頭脳はナミ自身の自立AI(普通の脳)と衛星からの特殊信号を受けて行動している。それが何かを忘れるなんてあり得ない。
ごまかしか、何なのか……ナミは直立したまま目を瞑って沈黙した。
「その子は?」
朝陽さんが当然質問してくる。何も考えていなかったことを後悔してももう遅い。
「えっと……」
「偶然、道ばたで会った人です」