Neetel Inside 文芸新都
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 パタパタと結衣がスリッパを鳴らせてそこへ入ってきた。

「何か手伝ってやろうか?」
 あの後、結衣は何故かタクヤの手下のように尽くすようになった。
 地下施設から出ることを許されている唯一の捕虜と言っても良い。
 それがナミには理解できない。
「いらない。それよりも、それ以上料理に近づいたら殺します」
「げ、毒なんか盛らないんだけどなあ」
「今日は何処へ出かけていたんですか」
「んー、別に何処ってわけじゃないんだ……」
 ――ナミにタクヤの尾行をしていたなんて言ったら大変だ。

「尾行ですか」
「え? 何でわかっ――、ち、違う」
「しかし、あれだけ殺すと息巻いていたあなたが、一体どういう風の吹き回しです」
 タクヤに対する敵対心は消えていた。
 彼が与えてくれる甘美な時間が結衣の心と体を染め上げたと言っても過言ではない。
「それは……よくわからない。けど、もう殺意とかそういうのはない」
「にわかには信じがたい言動をしますね」
「そうなんだけど……ね」
 結衣は髪の房をかき上げて視線を逸らした。

『ピロリロ~』
 その時、間の抜けるような音がナミのポケットから鳴り出す。
「はい、タクヤ? ――え? はい」
 ナミは突然携帯を切ると厨房を出て行く。
「え、ちょっと――どこいくんだ?」
 結衣が慌てて追いかける。外はまだ雨のままだった。
 玄関を出て、家の隣にある車庫の車に乗ったナミは結衣を乗せてエンジンを吹かした。
「一応聞きますが、ユイは何故途中で尾行をやめたんですか」
「尾行には気づいてたのか!?
 えっと、タクヤが能力者の巣窟(ネスト)って呼ばれるところに入っていったからちょっと怖くて」
「やはりそういうことでしたか」
「それってどういう――」
 キキキという音で結衣の声はかき消された。
 クラクションが鳴り響き、赤信号も歩行者も無視し、
 歩道に乗り上げながら走るナミの運転技術はどこぞのスパイ顔負けの腕だった。
「舌を噛みますよ」
 悪い夢でも見ているのか、裏路地に車を縦に突っ込んだときは息が止まりそうになった。
「わあああ!」
 ――――。

       

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