土砂降りの暗闇。そこは病院の跡地であった。
タクヤはその建物の軒の下で一人ぽつりと立っていた。
ナミ達の車がそこで止まる。
「あんたっ、交通ルールって知ってる?」
「地方の特殊表記から世界まで車の免許資格は網羅していますが?」
「その意味がない」
ナミは結衣が言い終わるより先に傘をさして車を降りていた。
「大丈夫ですか? タクヤ」
「ん、ああ」
タクヤの背中には一人の少女がいた。
「うわー、何だか不気味なところ」
車を降りた結衣が建物のそばまで寄った。
暗闇での大きな建物というのは怖い。
「タクヤ、その女は?」
ナミは元々そういう感情を持ち合わせていない。それよりもタクヤの背中が重要だった。
「――なっ、その子裸なのさ。気絶してる女の子をどうしようっていうの?」
「結衣は黙って」
タクヤは帰りながら話すと言って車へ歩き出す。
事の顛末はこうだ。
一度は通り過ぎた廃墟だったが、何故だか同じところに戻ってきてしまう。
結界の類を考えたタクヤが廃墟へ踏み込むと十数人と戦闘になった。
全員倒したが、何故か全員が非処女。
萎えたタクヤは少女達を解放し、建物を散策していると寝台に縛り付けられたその子がいたという。
「つまりどういうこと?」
「――処女を奪ってる女がいるってことだ」
タクヤは車の中で憤った声色をさせて言った。
次の日、朝の陽気が降り注ぐ街の中。タクヤとナミ、結衣の三人は連れてきた少女を囲んで言った。
「処女を賭けたぁ?!」
少女は萎縮したように肩をすくませながら頷く。
「仕方がなかったの、もう生活も出来なくて、あるのはこの変な力だけだし……」
ぽんっと手を叩くと突然ぬいぐるみが現れた。可愛らしい熊かたちのものだ。
「使えそうにない力だね……」