リビングのテーブルの上に置かれた熊人形は沈黙したまま、四本の足で立つことが出来ずにひっくり返った。
「じゃあ、あそこにいた子たちは生活が困難になった浮浪者達の巣窟だったわけか……」
「戦いに勝てばお金。負けても組入りすることで生きてはいけるということですか」
「廃墟のエリアは通称ネストって呼ばれていて、
元うちの組織(リンクポトン)ではそういう特定地域は看過していたんだよね」
少女と三人の間に間が流れた。
「いずれにしてもしばらく家にいればいいよ」
「あ、ありがとうございますっ」
タクヤは椅子に深く腰掛ける。
頭の中ではとっくに筋書きが出来ていた。そんな組織があるなら真っ先にそこへ行くべきだ。
……ぐうとなるタクヤの腹。
「急いで朝食にします」
「ああ、頼む」
ナミが席を立ってキッチンへ向かった。
「乗り込むのか?」
「まぁな、他にも巣窟があればの話しだが、あるんだろう?」
タクヤがリビングの隅から地図を取り出し、結衣に催促する。
御剣市の地図(それ)に結衣は赤ペンでマークを書き込んでいく。
御剣市に存在しうる廃墟の場所だ。
「都市開発が凍結したところは全部か……」
中には一角の住宅街なみの大きさを誇るようなところまであった。
「大きく分けて四つ」
ナミの運んできたトーストに舌鼓を打ちながら数と場所を確認する。
「南東に二つ、東に一つ、北東東に一つですか。
これだけ大きいとどんな組織があるかわかりません、お力添えさせて頂きます」
タクヤ家施設内の管理に追われて先日は同行出来なかったが、
今回は是が非でも行かなければならない。
「サー! 行くぞっ!」
晴天下で音頭を取ったのは結衣の姿だった。
玄関先でナミとタクヤを従えるように先頭に立つ。
「何でお前が仕切ってるんだ」
「私がいないと道案内できないだろ、違うか?」
「いや、必要ない」