夕陽の中、道ばたを歩きながら萌々子は携帯を操作する。
「萌々子さん、ちょっと待って下さいよ」
背中に声をかけられる萌々子。
『下級生の藤野だ。丁度いいや』
「何かな」
「この間の150円返して下さい。へへ」
小さい男……タクヤ君は一度もそんなこと言わないのに。
「はい」
あっさりとポケットから150円を取り出して藤野に渡した。
いつも常備しているだろう手際の良さだ。
「あ? え、あの……」
拍子抜けしたように手に乗せられた150円を見つめる藤野。
男なんてものは目的が急に叶うと途方に暮れる生き物だ。そこで次の目的を与えてやればいい。
「ねえ、ちょっと家まで送っていってくれないかな」
「え? あ、いいっスよ」
好意とかそんなものを感じているのだろうか。
いや、男が好意を寄せる女性というのはいつだって子孫を残すための基準でしかない。
ただ一人を除いては――。
「よお――」
声を掛けられたとき、はっとなった。私の家はもうすぐだというのに、そこには男達がたむろしていた。
鉄パイプを持った男と、がたいの良い男たちとがぐるりと私を囲い始めた。
「なんです……あなたたちは――」
「げへへ」
まるで化け物か汚物を相手に会話をしているような心地だ。
こちらと会話するつもりはないらしい。
「う、うわあああ!」
藤野がそう言った。女を背にして逃げ出した!
「ばーか、逃がすかよ!」
ズンっという鈍い音がして藤野は人形のように地面に崩れた。
そこから、どうやって逃げたか覚えていない。
ただ、藤野という男を選んだことを激しく後悔した。
本当の災いとはいつもこちらが油断した時にしか降りかからないものだ。
「はぁ――はぁ――」
どうせ大方、つまらない男が私一人に報復しようと送った野郎共だろう。
心当たりが多すぎて特定なんかできっこない。
辺りはすっかり暗くなっていた。そして同時に追い詰められていた。