第九話「リターン」
意識が目の裏へと入り込むような感覚にはっとなる。
「タクヤ?」
「ナミ……」
ベッドの上で横になっている自分の体を確認する。
心配そうにナミと結衣が俺を覗き見ていた。
邪魔臭い乳房がお腹の辺りに隙間を作っている。
「もう天水萌々子が黒なんだろ。早く萌々子を叩こう」
結衣の言葉にナミが続いた。
「萌々子が死んだからといって戻れるわけじゃない」
俺はそのままベッドに腰掛ける。
「なんで俺……」
「萌々子が私の横を通り過ぎてから気を失われたからです。
私が気づいた時には――申し訳ありません」
恐らくはそれが萌々子の力。消したいものを目の前から消す力。
頭の中の命令すら無かったことにするのが可能ということ。
そして俺は一つの結論を出した。
「ナミが予測したこの世界はやはり現実と反転した空間だ。それも多分、俺の力が原因だろう」
萌々子の映し身の回想によって考えられることはあの瞬間に萌々子が得た能力は消し去る力『性状消却(ネバーステイト)』そして――。
「俺たちはこっちに来る前に同じような能力者と戦っている……」
ネストに巣くう能力者たちを倒したところまでは覚えている、
その後全滅させたのか、どうかは不明だ。
しかし、第三の少女によってこの反転世界へは飛ばされたということになる。
そして、萌々子は現実世界で消えている。即ち、反転世界へ自ら飛んだということになる。
「では……やはり、戻るには萌々子の力が鍵なのでは――」
「それで当たりだ」
タクヤの力の最大の制限は無に回帰することが絶対に許されない。
死ねと念じて人を殺せる力ではないのだ。
当然それはタクヤによって力を得た側(イレギュラー)にも適用されるルールだということを意味していた。
「待って――その理屈だと、タクヤの力でも戻れることにならない?」