何が何だかわからないまま、鈴音はそのまま沈黙した。
「ふう……」
鈴音が気を失ったことで、不変の創造が解ける。ナミは勝利したのだ。
鈴音の体が徐々に赤く腫れていく。
原因はナミが不変を施された時、ナミは自分の回りの大気密度を変えたからだ。
ほとんど無酸素、深空状態になった空間で鈴音は窒息したというわけである。
当然、急激な変圧によって目は充血し、体内の細胞、血管、血液のいくらかは破壊されることとなる。
「――あなたの落ち度は人間をやめなかったことです」
ナミは一人そう呟いた。
鈴音は自身に不変を施して置きながら、その実、生命原理である呼吸や食事などを無くすことは考えていなかった。
創造の矛盾がここに発生するのである。
つまり、鈴音の具現していた不変は表層的なものに留まっており、
ナミはそこを見逃さなかった。
一方で、結衣のほうはみつきの修羅の創造であるその実体に息を呑んでいた。
「…………」
巻き付いたステンレス線は当に体に食い込んでおり、
出血もおおよそ普通の人間が流すような量は当に超えていた。
しかし、みつきの顔色は衰えず、むしろ楽しんでいるようだった。
「はッ――」
鈍い音がして、結衣の脇に拳がかする。
「ぐっ」
続いて回し蹴りがくるパターンはもう既に読めているのに体がついてこない。
ガードなどという選択肢を選ぶくらいなら結衣は潔く死んだ方がマシだと思える。
――ドシャ。
無理矢理捻りを加えた体が、そのバランスに耐えきれず崩れる。
当然、そこをみつきが逃がすはずはないのだが、みつきは動かないでいた。
「相手の足にナイフ突き立てるなんて、どういう戦い方を学んだわけ?
戦闘訓練でもしてたみたいじゃない」
ざくりと自分の足からおもむろにナイフを抜き捨てる。
「今のナイフは毒塗りだ。ただのナイフじゃない」
結衣は大型のナイフをあんな土壇場で捨てるような真似をしたことを小さく後悔したが、
毒なんかが今の相手に通用するだろうかとも考えていた。
「何も感じないけど?」
みつきは無心の状態で常に修羅の創造を行っている。