この和服の女。名を千尋と言い、時を創造(タイムクリエイト)する人物であった。
人の過去を覗き、その過去になかったことを吹き込む。]
そうするだけで、人は意図も簡単に現在の考えを改める。
この力は直接相手に影響を及ぼさないが、
人は自分の経験を疑わないだけに、この力で与えられた過去は絶対という確信を持って記憶となる。
「なかったことが、あったことになる。ふふ、あははは――」
ただし、触れた者と一定時間視界に捉えた者でなければ可能ではない。
そして、みつきの髪留めを自分の髪留めにする。
「意外と似合うか」
そうやって髪留めをいじっていると、部屋をノックする音が響く。
「私です。手はずは整いましたか?」
「ああ、今し方終わったところよ。そっちも結衣の身柄はきちんと束縛したのだろうな」
「はい。万が一にも抜けられません。仮に抜けたとしても、この建物からは出られないでしょう」
お互い相違がないことを確認すると、みつきを起こす。
無論、この二人とは初対面である。
「な、――え?」
『時の創造(タイムクリエイト)――』
この瞬間、みつきは先の記憶に加え、ナミや千尋と共闘しているという記憶が植え付けられる。
「あ、千尋さま……」
みつきの声に千尋の口元がにやりと歪む。
「休憩はもういいであろう? 今宵、タクヤを始末する」
「はい」
修羅の創造を得たみつきの傷は治り、完全とも言える状態まで回復していた。
三人はマンションを後に月下へ躍り出る。