第十六話「パッション」
「馬鹿なっ、確かにお前の記憶(じかん)は崩壊したはず……」
千尋はその華奢な両腕をタクヤに拘束されながらそう口にした。
横目で彼の元いた位置に視線を泳がすとタクヤの姿は消えてはいなかった。
「なんなのだ、お前は!」
驚きと恐怖のあまりに千尋は叫んだ。
「ナニってこれからお前を犯すものだけど」
ぴったりと密着した千尋の体は抵抗らしい抵抗もできず、
タクヤに腰を抱えられているため突き放すこともできない。
「なっ、放せ、私の体に触れるなッ」
タクヤの過去を浸蝕するために費やした体力は既に千尋から抵抗力を奪っていた。
「着物って確か正統派は履かないんだよな?」
「なっ――?」
それが何を意味するのかわかるまでに千尋は数秒を要した。
確かに今自分はこの下に何も下着をつけてはいない!
「ま、まて。降参だ、降参する。だからもう――」
「ふざけるなよ」
「――っ」
タクヤは喧嘩でもしているかのように安い怒号を吐き出した。
「俺たちは命がけで戦っていた。そして、確かに今俺は死につつあるんだ。
それを降参だ何だと言って手を引けるわけがない。負け犬は黙って犯されろよ」
千尋の顔から血の色がさっと引いた。
「んく――っ!」
強引に唇を奪われた千尋の清んだ栗色の目は、ぱっと見開いて揺れた。
「んんんっ、んん――」
勢いで暴れてみるものの、男の腕がそれを赦さなかった。
そのままアスファルトの上に二人の体は横たわる。
「くぅ」
着物の下にタクヤの手が伸びる。
太股を這っていき、すぐにそこに到達した。
「ひ」
小さい悲鳴が千尋の精一杯だ。
まだあどけなさが残るその秘部が露わになると千尋は露骨に抵抗を示し出す。
「やだ、だめだ――あ、わ、私はっ」
「操を立てた相手でもいるのか?」