「は――っ」
千尋がその攻撃に直撃し、突然呼吸ができなくなった為に気を失う。
「え?」
タクヤは目の前で突如何らかの攻撃によって気を失った女を見て狼狽した。
視線を上げると、目の前には見目麗しい血に濡れた乙女が佇んでいる。
『ナミ』とこの女が呼んでいたのはこの子か、とタクヤは平静に横手を打った。
「俺はタクヤ。君は?」
「……」
しかし、いくら待っても返答を得られないタクヤは、しびれを切らして踵を返した。
「(家に返ってゲームでもしよう)」
下で気絶してる女はどうしようかという頭が一瞬過ぎり、
タクヤは仕方なくその着物を直して、背中に背負った。
マンションのとある一室で、両手両足を縛られた少女が薬の眠りから目を覚ました。
その姿は結衣であり、黒いスカートも制服も着崩したように乱れながら、すぐに身をよじって動きだす。
「ひやなほはんはふる……」
口元には白い手ぬぐいがまかれており、白肌に赤い痣を見せるほどそれは強固な縛りになっている。
アーモンド形の凜とした瞳が腰の下を睨みつけ、探ろうとする。
横ばいではそれも満足にいかず、縛られた手首から先が黄白じみた色へと変色していった。
「……!」
それは偶然としか言いようがなかった。
手首のロープが木壁のささくれに偶然かかり、結衣の狙った腰下へと手を伸ばすことが出来た。
「っ――」
気合いで引き抜いたのは指先ほどしかないおもちゃのナイフのようなものだ。
ひっかかりをいじるとしゃきりと小気味いい音がして、刃物が飛び出す。
小さいが、切れ味は良く、ロープはほどなくして切れた。
「ふぅ――」
最後に脚の拘束を解くと、結衣は乱れた衣服を軽く整えて、外へと向かった。
「たく…や?」
騒ぎの大きい方へと走っていくと、どうやら死者が二名いるとの噂があちこちから聞こえてくる。