Neetel Inside 文芸新都
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 開けた大通りへ出た頃にはその戦いの凄惨さが滲み出るほどの酷い有様が伺えた。
 建物のあちこちに飛び散った血痕、血飛沫か何かがわからないそれらは何かを道のど真ん中で破裂させたような跡だった。
「タクヤー!」
 元々、結衣はタクヤを好いていたわけではない。
 しかし、今は違う。
 タクヤの存在は世の中に何ももたらしていなかった結衣の世界観にとって一縷の光に等しかった。
 キープアウトの黄色帯をくぐるとすぐに美人系警官に押さえ込まれる。
「誰だっ、誰が死んだの!」
 必死の形相に睨まれた警官は、本来黙秘すべき事柄を差し支えないように答えた。
「十五歳前後の男性と、年齢不明の女性と思わしき人よ」
 Dansei? 男性はタクヤでしかあり得ないではないか。
 だって、この街に男は一人しかいないのだから――。
「うわぁぁああ――」

 いつまでそうしていたのか、結衣の頬に空からの泡がひたりと当たり始めていた。
 初めてリンクポトン社に入ったときは、さながら気分でしかなかった。
 この街にいる男を拿捕し、この街の治安を維持する。
 意味のわからない意向だったが、気は紛れた。
 本当に男に会うとは思ってもみなくて、
 自分が何故こんなにもナイフの扱いが巧いのだとかそういうことはこの時までは何の疑問にも感じなかったものだ。

 それが、圧倒的敗北を前に結衣は自分の存在を悟った。
 良い意味でも悪い意味でも、結衣に与えられた肉体は結衣の人格全てを定義するものになっていなかった。
 だからこそ、タクヤに出会うまではレーゾンデートル(存在理由)がない、
 創造物でしかないと心のどこかで自覚していた。
 私が私たらしめるもの。
 それは、産みの親に必要とされることに等しいものだった。
「あぁ……」
 小さく呻いた少女の瞳から一縷の涙が消える。
 大降りになる雨の中、結衣は一人、誰も知らぬ場所へ帰ろうと決めた。



       

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