第十八話「マーベラス」
俺――いや、僕。まぁ、タクヤっていうんだけど、正直なんなのこれって感じだ。
今思えば、街に出たときの風変わりな匂いが、全ての異常を知らせていたように思う。
親父兼、亜夕花の説明は本当だったというわけだ。
見渡す限りの女、女……。
それも取り立てて美少女ばかりが目につく。
「タクヤ、何処見てるの! 私を見ていてくれないとダメなんだから」
わかっております。けど……。
すれ違うのも美少女。
コンビニで会話しているのも美少女。
行き交う車を運転しているのも全て美少女たちだ。
目まぐるしいほど女性に溢れたこの街は、どこからどうみても不可思議だった。
鈴音が横でべったりと僕の腕を絡めているからか、不思議とそれを冷静に見ていられる自分がいる。
しかし、これを考えたヤツは、よほどの倒錯者としか思えない。
ましてや、自分などと――。
「ん、タクヤぁ、ほらッ、学校に着きました!」
「ん、あ、ありがとう」
思わずお礼を述べてしまうほどに僕は呆然としていた。
何故かナミがさっと僕の鞄を持った。
「?」
「靴を脱いで」
「ああ」
その意図を理解した僕はすぐに靴を脱いで下駄箱へ放り込む。
僕の鞄を返して貰うと、鈴音は眉をしかめて自分の下駄箱へ行くナミの後へ続いた。
廊下を歩いていると見知らぬ少女達が奇異の眼差しというか、
敵意のような目を向けて、僕らを睥睨していった。
「仕方ないよ、私たち、この街で唯一の『恋人』だもの」
鈴音があらぬことを言い出した!
「ま、待ってよ鈴音さん。僕らはそういう関係じゃないはずだ」
きゅっときつく絡められる腕。
ナミに助けを視線で求めるが、ナミは俯き加減で僕を見ていなかった。
「ど、どうなって……」
辺りを見回すと、少女達が足取りを止めて睨んでいた。