Neetel Inside 文芸新都
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美少女70万人vsタクヤ
第二十話@家屋敷(プレミス)

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第二十話「プレミス」(家屋敷)

「よし、そいつと会ってこい、タクヤ」
「ええ?」
 亜夕花(父)は突拍子もなくそう言った。
「何が『ええ?』だ。お前が原因でこの子が苦しんでるんだから当然だろう」
「で、でももしそいつが普通の人間じゃなかったらどうすればいいんだ?」
 タクヤの前にいたというタクヤの存在は恨みを沢山買ったという話しのはずだ。
 それだけでも怖いのに自分のことを執着している女の元へ下る気は全く起こらない。
「ナミと鈴音がいるだろ」
「?」
「その二人はただの人間じゃないぞ。間違っても核兵器よりは強い」
「何を言ってるんだ」
 タクヤは鈴音とナミを見やる。
「そうだね。不変創造(エターナルクリエイト)があれば核兵器をもっていたとしても効かなわね」
 いやいや、何を。
「私は別に――何も」
 ナミは心ここにあらずと言った風に本を読みふけっている。
「ナミはこういってるけど?」
「ん、そうか。しかし、それは真実ではないな」
 真実ではない。相変わらずわけのわかりづらい言い方だとタクヤは思った。
「じゃあ、百歩譲ってだ。鈴音が核兵器があってもダイジョウブっていう保証はどこにあるんだ?」

 鈴音はケーキに使っていたフォークを取り出して、それを自身へと突き立てる。
「お、おいっ」
 静止の声も聞かず、がつっというおかしな音がして、フォークがひしゃげると鈴音は笑って言った。
「ほらね、これが証拠」
 なんじゃそりゃ!
 馬鹿な、あり得ない。肉体よりフォークの方が柔らかいなんて、そんな現象どこにある?
 綾女は息を呑んで硬直していた。
「マジックかなにか?」
「そんなんじゃないわよ、私だってこれがどういう原理で起こっているかなんて知らないし、知りたくもないの」
 亜夕花がくつくつと笑う。

     


「タクヤ、お前にはもっと凄い力があったんだぞ。それを忘れているんだから、どうしようもないが」
 鈴音は恐らくトラックが光の速度で衝突してきても毛一本と抜け落ちないだろう。
 それ以上の力が自分にあるなどとは到底信じられる話しではない。
「鈴音は大丈夫だろうけど、僕と綾女はどうなる?」
「鈴音にその力を使ってもらえ」
「え? そんなことが出来るのか?」
「できるよ」
 それじゃ、無敵じゃん……。

 しかし、現実はそう甘くはなかったと鈴音の一言で思い知る。
「あ、そうそう。この力は皮膚一枚の防護服だと思って。
 毒ガスとか水の中に沈められると死んじゃうから」
「そうなんだ、って!」
 そういうことは早く言ってくれ、と言うのも束の間、綾女の屋敷まで着いてしまった。
 空は薄暗く変わっており、ナミ、鈴音、タクヤの三人はその屋敷とも言える巨大な建物を前に言いしれぬ威圧感を感じていた。
「どうぞ、お入りください」
 綾女は先陣を切って出た。
 物静かな屋敷に鍵はかかっておらず、その扉はすんなりと開いた。
「おかしいですね……誰もいないのかしら」
 綾女は怪訝な顔をして辺りを見回す。
 しかし、そこに人影と呼べるものは見当たらなかった。

 ――ギィ。
 どたんと大きな音がして振り返ると、そこに開いていたはずの扉が閉じている。
「誰か閉めたのか?」
 押さえがなくても開いたままの重い扉がそう簡単に閉まるとも思えない。
 鈴音が前へ出て、扉を押してみる。
「だめね、鍵が掛かっているっていうよりは壁になったみたいに動かないわ」
「閉まった衝撃で蝶番が壊れたのかしら……」
 綾女も押してみるが、その扉はぴくりともしなかった。
「まあ、いざとなったら窓から出ればいいよ」
 タクヤは自分に言い聞かせるように皆に言う。
「仕方ないわね」
 一行はそれで納得し、エントランスから通じる階段を上っていった。
「お姉様――! 誰か――!」

     


 返事はない。
 しんと静まり返った屋敷はただ不気味な空の色を室内に取りこむばかりだ。
「さ、探すのか?」
 タクヤは恐る恐る聞いてみる。
「……」
 綾女は自分の家のことだけあって、気になっている様子であった。
 鈴音は怖いモノ見たさからか、楽しそうにも見える。
 ナミの表情からは何も読み取れない。
『っばっかもん! いいから探せ!』
 突然脳裏に響いた声は亜夕花のものだった。
「うわっ」
 米神を抑えてタクヤは屈む。
 朝方に貰ったコンタクトからの通信だろう。亜夕花もこの状況を把握しているようだった。
「親父、聞こえるのか?」
『ああ、当たり前だ。それより、ちょっといいか?』
 視線を起こすと、怪訝な顔ぶれが三つあった。
「あ、あーてすとてすと」
 刹那、喉に鈍痛が走ったかと思うと、タクヤの喉から亜夕花の声が聞こえてきた。

「きゃ、なんなのそれ」
「ぼ、僕じゃない」
「その通りだ。タクヤの声帯を借りてお前達と通信している」
 タクヤの喉元からは依然として女の子の声が聞こえてくる。
 これも父の発明なのか? 常識とモラルを逸したとんでもない発明である。
 やりすぎよ、という鈴音の意見はどこか弱々しく聞こえた。
「お前達が入ったという屋敷だがな、どうにもおかしい」
 亜夕花は少し間を置いて、全員が聴く態度を取ったのを見計らって切り出した。
「お前達がその屋敷へ入った途端、お前達を追っていたこちらのレーダーから生体反応が消えた。
厳密に言うと、生体波長と呼べる生き物が持つ活動音と、電気信号の反応のことだ」
「つまり、私たちはこの屋敷に入った途端に死んだとでもいいたいの?」
「いや、そうではない。近くに強力な磁場があるか、
生き物のようなものの体内に入ったかという説がより論理的だろうか」
「簡単に言ってくれ」
「ふむ……」
 亜夕花は少し考える間をおいてから、ゆっくりと言った。

     


「何か良からんことがそこにある」
 それだけ言うと、タクヤの喉は正常を取り戻した。
「すみません……私のせいで」
 綾女は心底申し訳なさそうに眉をひそめた。
「ほんとよ、タクヤがいなかったらあんたなんか相手にしないわよ」
「鈴音っ、頼むからこんな時にまで――」
 そうこう言ううちに異変は訪れた。
 ガラララ……。
「何の音?」
 キャタピラを回すような機械音が鳴り響く。
「防災用のシャッターです!」
 綾女は急ぎ近くの柱へ駆け寄る。
 それと同時に辺りは暗くなり、何も見えなくなった。

「窓が閉まったのか?」
 ぱちっという音がして、綾女を含む四人の姿が映し出される。
「火災用にこういった設備が整っているんです、火の廻りを遅くするために……」
 綾女が手に持ったのは懐中電灯のようだ。
 今や周りにいる人の気配だけが、唯一の気の置き所だった。
 それは彼女たちも同じなようで、鈴音は少し震えているようでもあった。
「もう……なんなの、早く出ましょうよ」
 しかし、窓が鉄板で塞がれてしまってはどうしようもない。
 皆の口は重くなった。
「出口はあるのか?」
「はい……でも、ここを買った時から一度も見たことはないんです……」
 詳しく話しを聞くと、屋上に出る階段と、地下から抜ける扉があるという。
 後者は一度も使ったことがないらしく、使えるかどうかは不明らしい。

       

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