Neetel Inside 文芸新都
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美少女70万人vsタクヤ
第四話@排除(クリア)

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第四話「クリア」

 この数日でタクヤは朝陽に力の存在を感ずかれはしたが、あの後追及されることはなかった。
 クラスの半数が一気に転校生と化したことで、自己紹介や委員の役決めなどで二日が過ぎた。
 中でも一番時間を食ったのは教師達が全員の学力を見て授業を変える必要があると判断した為に起きたテストだった。
 その中でタクヤはナミをどうしても是正しておかねばならないと判断していた。
 リビングの一角で、今タクヤは眼前にナミを据えている。

「……ナミ、お前には反省すべき点が三つある」
「はい」
「一つは全教科満点とかいうふざけた記録をつくるな。
 あのテストは全国模試から抜粋されたテストだぞ。満点なんか取ったら目立つだろうが」
「ですが、テストは点数を競うものだと……」
「いいから、聞けよ。二つめは僕を視線で追うな。いつもお前は僕を目線で追っているな?お前はただでさえ目立っているんだ。その……顔は可愛いけど、その顔で僕とお前が勘ぐられると野望の弊害になる」
「じ、自重する……」
「三つめは反省とは違うが……、外では他人のフリ、
 それと性格も変えてくれ。僕の好みじゃない方がいいな」
「――……」
「できるな? お前が他の女子を凌駕してはいけないんだ」
「……はい」

 ナミの表情は特に変わらない。
 タクヤの家のリビングで彼女の表情は少しも揺らぐことはなかったようにみえた。
「それと失敗したイマジンクリエイトだが、もう一度整理して話してもらえるか」
「はい。イマジンクリエイトの対象は70万人の美少女とここ御剣市の男性総数約40万人に適用されました。
 まず、御剣市の約40万人の男性は置き換え確定ですが、
 70万人の美少女全員と入れ替わることは不可能であり、置き換え・加算処置が行われたものと見られます」
「問題点は――」
「問題点は余り約30万人の美少女がこの御剣市に強制介入していることです。
 不確定要素とされますタクヤの美少女潜在概念が高ければ高いほど元の70万という枠組みで適合する数が限られます」
「もう少し詳しく説明してくれ」
 ナミは画用紙に色鉛筆で何かを記入してく。

     


「例えば、Aという要素を持った少女が美少女だとしましょう。
 これを所有する少女の数は日本だけで言えばx人だったとします。
 ところが、タクヤがAとBという要素を持った少女を美少女だと考えるならば、
 その少女の数はy人となるわけです。この誤差によって、美少女本来の絶対数に異変をきたします。
 結果としてイレギュラー、人間外のものが出現する可能性があるということです」
「解決案は――」
「解決案は四通りになります」
「話してくれ」
「一つは70万人の美少女を諦め、元の男性を戻すことです。
 戻すだけになりますから人間外の美少女は消えませんが、問題なく今までの日常に戻れるでしょう」
「二つめはイマジンクリエイトを有効に使い、
 美少女を手当たり次第に誘拐……よく言えば捕まえて社会から隔離してしまうこと」
「……」

「三つめは能力者(イレギュラー)を探し出して殺すこと。
 そうすれば、結果的に世の中の混乱を招くことはありません」
「ちょ……」
「四つめは能力者を『排除(クリア)』することです。もちろん、
 現実世界から切り離すだけですからこちらは殺しはしません。
 ここの研究施設で子作りなり従僕になり励まさせればいいでしょう」
「他に良い案はないかな」
「今のところはありません、しかしまずはこの御剣市を隔離、
 世界の認識から何かどうでもいいものに置き換えなければ、
 ここで不可解な事件が多発することを世界が黙って見ていません」
「そうだな。俺のイマジンクリエイトは置き換えることに関しては無敵だもんな」
「はい、そして必ずタクヤ様の野望は完遂できます。どうかそれまでは私をどこまでもお付き合いさせて下さい」
 ナミはスカートをつまんで、タクヤに恭しく頭を下げた。

 そして御剣市は次の日からニュース、地図、人々の認識・事実から置き換えられた。
 今そこは巨大な湖となっている。無論、それが私たちが見る御剣市の姿だ。
 人口110万人の都市はこうして、人々の認識から排除(クリア)されたのである。
 それに変わる御剣市の認識はどこへ行ったのか――? その答えは、何れ解ることである。

     


 一方その頃、高層48階建ての最上階オフィスに、飲料水製造会社『リンクポトン』の社長が居た。
「今日から社長に就任する水無瀬鏡華(みなせきょうか)と申します。
 製造ロットを早速改変致しますので各々部署に緊急招集を掛けてください」

 タクヤとナミは一つの問題点を見逃していた。
 それは置き換えによって経験や記憶までもが置き換わるわけではないという問題点だ。
 つまりは、『美少女個人の経験・能力を超える置き換えは成立しない』ということである。
 
 しかし、この街が今日までその均衡を崩さずにあったのは偏に優秀な彼女たちの働きのおかげである。
 そう、タクヤが呼び寄せた理想の高すぎる少女たちの大半、
 否、全ては決してただの美少女だけのカテゴライズで収まる者達ではない。
 その実体は現実世界を超越したエキスパート達の集団だったのだ。
「社長、B―53からの連絡です」
 側近の凛々しい美少女がアタッシュケースに詰められた複数の携帯の一つを取り上げて言う。
「繋いで」
『――こちらB―53。エリア3問題なし。活性エリア内オールグリーンです。
 局部的にイエローでしたが、先鋭人材を投与しました。緊急を要した為、独断で行いましたが認可願います』
「こちらZ―1。お勤めご苦労さまです。そちらの行動は認可致します。
 引き続き巡回警備、及び異端排除にまわってください」
『――了解しました』
 ピッという電子音で静寂が訪れる。無線を持ってきた彼女は一礼してその場を後にする。
「必ずいるはずよ……この街に、もっと強大な力の持ち主が」
 オフィスの窓から鏡華は見下ろす。青空の下に高層建築が建て並んでいる。
 この何処かに『元凶』がいるはずなのだと彼女は小さく美しい唇を結んだ。

 何事もなくタクヤが能力を得てから一ヶ月が経とうとしていた。
 二月ももう終わりであることくらいしかタクヤの頭にはない。
 当初の目的、『美少女ハラマ』に基づき、美少女は着々と手に入れているタクヤだが、
 どうもしっくりこない。簡単すぎるのだ。

「はぁあああ――ん」
 地下三千メートルの研究施設は今やただの肉欲と劣情の巣窟でしかない。
「これ、何人目?」

     


 目の前に横たわる精液まみれの少女をナミが手厚く介抱する。
「5318人目です」
「よし、学校に行くぞ」
 タケルがいつだかのバレーのときにしたイマジンクリエイトの超人的能力は『精力』に他ならない。
 生命力が大幅に上がったと思っても言い換えても良い。眠る必要もなくなった。

 住宅街へ出ると2メートル後ろを歩くナミ。僕はそのナミに呼びかけた。
「なあ、ナミ」
「なんですか」
 手招きをして他人の距離をやめろという。
「僕さ、友達がほしいんだけど。これって変かな」
 気づけばそんなことを口走っていた。
 決して美少女ハラマを諦めるつもりも途中でやめるつもりもない。
 ただ、今自分がしている生活には本当にただ本能という一点でのみしか機能していない。
「変だとは思わない。人は一人では生きられないという言葉を肯定するわけじゃないけど……」
「? 言いたいことがあるなら言って良いぞ」
 ナミにしては歯切れが悪い。
「……私じゃ足りてない?」
 胸を突くような衝撃が走ったかのように思えた。人間に近づくナミの言動は時折タクヤの想像を超える。
 彼女は一体何を望んでいるのだろうか。
「足りてると……思うけど」
 そう言ったときだ。目の前に一人の美少女がツインテールを揺らしながら現れる。
「……」
 明らかに異質なオーラ。黒いフリルのついた制服に白いスカートはゴスファッションのようにも見える。
 脚に巻かれた大量のフリルからは何やら歪な黒い塊が見える。
 5メートルほど離れた位置に対峙して、少女はスカートから携帯を取り出した。
「B―53。エリア4にてレッドを視認、コード63により緊急戦闘態勢に入る。
 目的は対象の生死を問わない捕獲」
『許可する――』

「おいおい……」
 タクヤがここ一週間でわかったことは、この美少女達の中にはこうして組織化した者が、
 街の治安を維持しテリトリーを保有していることだった。
 しかし、ここまで自分に敵意を見せる相手は初めてであった。
 タクヤは今までの相手も同様に戦闘になってきたが、まずは普通に呼び止められることが多かったからである。

     


「タクヤ、来ます!」
 ――シュ。
 空気を滑る音と、何かの初動作が見えた。タクヤは戦闘が騒ぎにならないように創造する必要がまずあった。
『半径2000メートルを一時的に三人の共有意識へ』
 正確には2kmも正確に想像できるはずはないが、とりあえず途方もない距離を想像することで事足りる。
 この瞬間からこの街の一角で自分たちの他の人間に意識されることはない。
「タクヤ、毒塗りのナイフ使いです。神経毒を食らいました」
 いつの間にかナミは片腕で飛来した子ナイフを受けていた。タクヤが標的になった瞬間、
 ナミは即座にタクヤの肉壁として機能することを選んでいたのだ。

「ごめん、ナミはもう下がっていていい」
「この毒は……っ、呼吸器系――ッ」
 ナミの呼吸は途端に浅く速くなり、両膝を折って座り込み頭を垂れる。
 相当苦しいのだろう、命に関わるかもしれない。それでも倒れないのはナミの執念という他ない。
「女が盾になったか。この毒は我が社が作り出した特製でね。残念ながら解毒剤はないんだ。
 ほとんどの毒に耐性がある昆虫ですら麻痺する代物だ。捕獲されるまで生きていれば御の字だな」
『全ての神経毒に対する最も効果ある解毒剤』
 タクヤはこの隙にすでに注射器を握っていた。それをナミの腕に射し入れる。
「ふん、どこから取り出したか知らないが無駄だ」
 少女は背中から大型のナイフを取り出す。
 サバイバルナイフ(BMF)のような峰の部分がギザギザになったやつだ。
 両手に二本、脚を組み直して構えた。

「殺す気か?」
「お前はこの世界の創造主だろう? ただの人間ではないことくらい解っている」
 何故知っている――?
 僕もまた姿勢を構えた。皮肉なことに顔だけは可愛い。
 あのフリルの中に逸物をくわえ込ませて濁流を流し込みたい。
 頭の中で戦闘とは関係のない黒いオーラがわき起こり、戦慄とは違う武者震いが起こった。
「余裕だな。丸腰の分際でっ」
 少女が駆け出す。しかし、それとは対照的に僕は目を瞑った。想像するのは――。

『目の前の女の●●コに俺の逸物の先を空間転移』

「?!ッ――」
 思わず声を上げた少女は駆けだしたその姿勢のまま動かなくなり、
 恐る恐る目線を下にやる。僕は下着の中が温かく、それでいて窮屈で、
 何か柔らかなものに包まれている感触に浸っていた。

     


「なに、これ……」
 少女の内股から流れる一筋の朱。少女が破瓜を散らしたことを物語っていた。
「気がついたか? お前も何かの能力者だったんだろうが、その状態でまともに戦えるのなら相手になろう」
 理解が追いつかないのか、少女は唖然とした様子で秘部から流れ出るものを見ていた。
 ようやく『それ』に理解が至った頃に少女は壊れた。
「やだっ――、やだやだやだッ」
「おいおい、ただ挿れただけだぞ?」
 僕はもう顔が緩みきっていた。戦うより先に相手の心を折ってしまったが、どうでもいい。
 このまま中で果ててしまおう。そう思った時だ。
 ――少女はその両手のナイフを高々と掲げた。
「あああああぁぁぁ――」

『! 空間転移解除』
 さくっという音がしたのはスカートとパンツのゴムが切れた音だろう。
 少女は何の迷いも躊躇いもなく、自身の下腹部にナイフを突き立てた。
 ナイフの先は少女の下半身を深く突き刺し、全てを赤く染め上げていった。
「は、はははっ――。畜生、ちくしょう……」
 おおよそ、女の子が使うような言葉ではないが、今の心境はまさにその一言しかないのだろう。
 まともに戦えば少女にまだ分があったに違いない。
 邂逅した途端に破瓜を散らされるなど、誰が想像しただろう。
 大粒の涙を流し続けながら何度も同じ言葉を繰り返し続け、少女は最後まで僕を睨み続けていた。

「……」
 しゃりと崩れ落ちた体はもはや性欲の対象などではない。
 僕は少女の武装を解除していき、その体を背中に乗せる。
 ナミがそっと立ち上がったのを目尻に見た。
「もう大丈夫なのか」
「はい、足りない部分はこちらで解析し成分を粒子化合しました。異常ありません」
 そっとタクヤの後ろへ移動するナミはその違和感に気づく。本来なら見捨てるはずの少女を運んでいるのだ。
 ナミはタクヤの後ろで一人、顔を曇らせた。
「学校は休みだ。こいつを治療する」
「……わかりました」

 路地の影で二人を見送る影があった。
 朝陽鈴音と柊みつきはイマジンクリエイトの力に影響されず、三人の行く末を見ていた。

       

表紙

病芽狂希 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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