Neetel Inside 文芸新都
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美少女70万人vsタクヤ
第一話@想像創造(イマジンクリエイト)

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 第一話「イマジンクリエイト」

 2XXX年 2月某日。

 タクヤは受験勉強頑張りましょうというところではなくなった。
 まずはこの能力を徹底的に検証する必要がある。
 そう考えたのだ。
「タクヤ君、おはよう」
「ああ、おはよう」
 柊みつき。昨日の女の子の一人だ。交差点で足を止める。

「なんか、タクヤ君雰囲気変わった?」
「そう? 昨日寝てなかったから多分そのせいかな」
 昨日は番組放送の内容を途中で変えたり、国会や世界のニュースを変えたりとまずは上々の成果を上げていたのだ。
 信号機はまだ赤だが、タクヤはあることを試したかった。
 この力で『有』を『無』にすることはできない。
 ならば、間接的に消すこと、あるいは被害が出るかどうかという疑問だ。
 タクヤは目を瞑る。手に汗が沸いてきた。

 想像創造(イマジンクリエイト)する世界は『柊みつきが轢かれそうになる』だ。
 あまり長い想像は抽象的さに欠けるため実現が難しく、目的を完遂させられないことが解っている。
 例えば『柊みつきが大型トラックに轢かれそうになるが2m手前で止まる』などとすると、
 大型トラックと柊みつきの2mという間隔は絶対的になり、もし中間に誰かがいるとそいつを殺してしまうことになりかねない。

 信号が青へ変わるとまず歩き出したのは柊だった。ここまでは予想通りだ。しかし、続けて自分も歩き出す。これは万が一にも自分が想像したことに自分が巻き込まれる可能性があるかどうかを見る危険なテストだ。
 万が一にも自分の妄想で自分が怪我をするようならこの手の使い道はないと思った方が良い。タクヤは今日、この辺を見極めていこうと思っていた。

 ――キキキキ!
 
 車種は選択していなかったが、普通自働車が突っ込んできた。
 それは鮮やかにタクヤを回避して柊の方へと弧を描いてブレーキ痕を残す。
「あ……っ!」
 タクヤは咄嗟に横に飛んで柊を抱え後ろへ飛ぶ。
 この動作がわずか一瞬のうちに出来るのは予め車が柊に接近することをわかっていたからだ。

     

「あ、――ぃって!」
 僕は柊を担いだまま倒れ込んだ。
 正直言って自分が仕掛けたことなのに助けたことで痛いを思いをするのは不覚だと猛省する。
「大丈夫? 柊さん」
「う、うん……」
 運転手が降りてきて平謝りする。
 警察がやってきて事情聴取までされるとは、やはり使い方を誤ると面倒になるとタクヤはここで定義した。

「あの、タクヤ君。助けてくれてありがとう。その、どこか怪我してない?」
「ん、全然平気だよ。それより学校行かなくちゃもう遅刻だ」
 柊さんは頬を上気させていたが、逆に僕は冷静だ。
 そして警官に連れて行かれる運転手をみて不憫に思ったが、起こしたことはなかったことにはできない。
 そう割り切っていこうと改めて胸に刻んだ。
 
 職員室で事情を説明していたタクヤが授業に出られたのは二時限目。内容は体育だった。
「この寒いのに体育なんて入れるかよ。普通」
 午前授業の体育はやたら寒い。それが体育館でもだ。
「バレーボールかあ」
 女子と合同ではないバレーボール。野郎だけのバレーボール。タクヤはイマジンクリエイトを発動させることにした。
 やはり日常に花を持たせなければ面白くないってことだ。

『他校女子とバレーボールをする』
 しまったと思った。タクヤはつい勢いで自分の欲望を素で叶えようとしてしまった。
「なぐりこみじゃああ!」
 何かと思い振り返ると体育館の入り口でジャージを来た不細工なおっさん並びに少女軍団がバレーボール片手に叫んでいる。
 顔を覗かせる女子の数、六名。
「せめて美少女にしとくんだったあ……」
 タクヤは自分の安易な妄想についカッとなって膝をついた。
 すぐに妄想を追加しようと思ったがそれはやめた方がいいという直感が告げていた。
 試験的に昨日わかったことだが、妄想を追加していくと辻褄が合わないところを消すために様々な現象が副次的に発生する。
 この副次要素を無視した妄想は当然実現不可能なわけで(無いことにするのが不可なため)、
 もしこの瞬間、「美少女の他校女子と」という要因を追加しようとすれば今いる他校女子生徒が自分だけに美少女に見えるという比較的安直な実現へ持って行かれても不思議ではない。
「なんだ! そこで膝ついてる男ォ! なっさけねえ。おい、お前ら!」
「「「はい!」」」

     


「――え……?」
 タクヤは両腕を抱えられて立たされると無理矢理コートに引っ張り出された。
「お前一人対、うちの学校のバレーボール部先鋭隊だ! 文句あるかァ! あるやつはこいつのコートに入れェ!」
 そういってタクヤを指さすジャージ男。
 誰も関わりたくないのか僕のコートに入ろうとするヤツは一人も……。
「はい」
 いたよ。勘違い馬鹿女郎が。
 その姿は柊みつきだ。
「(助けてもらったお礼よ。多分ボロ負けでしょうけど、うまく負けましょう)」
 なんか、身に染みる言葉だけど……ごめん、あれは僕が起こした事故なんだ。
 心の中で謝っておく。ジャージ男は他にいないかと大声をあげるが、誰もいやしない。
 そりゃそうだ、相手は女子は女子でも無機質詰まりまくった筋肉と肉体を持った怪物と怪物と……あれ。
「おらいくぞォ!」
「び、美少女がイル!」

 ピ――――。

 間違いない、巨体の後ろに目のくりくりとしたちっちゃい子がいた。
 ズバァン!
「1-0だ。なんだおい、お前らちゃんとこいつらが取れるように体狙ってけェ」
「「「はい!」」」
 や、やべえ! イマジンクリエイト。
『僕の体は超人的な肉体能力を有する』
 これは土壇場でのイマジンクリエイトだが、実際どういう能力を有するのか全く理解できない。でも多分大丈夫だ。
「邪気眼こい、邪気眼」
「サッ!」
 宙に舞ったボールが回転しながら落下していく。
 それを追うように巨体の少女がジャンプし、剛腕をボールへ叩きつける。
 ズンという音と共にボールが歪み、一直線に柊さんへ――
「柊?!」
 ほとんど、目で追えないようなボールが柊の顔面に迫るのが見えた。
 邪気眼でもなんでもない、あれはどうやっても鼻血確定の速度だ。
「綺麗な顔に罪はない!」
 僕は腕を伸ばしてボールを払うように打った。

     


 ズバンという音がしたと同時にボールは相手のコート裏へ落ちていた。
「た、タクヤ君?」
「ご、ごめん。柊さんはネット際でセンターやってくれる?
 あいつら全然容赦ないし、勝つつもりでやらないと怪我する」

「う、うん」
 あれだけの剛速球が腕に当たったのにタクヤは微塵も痛みを感じない。腫れもない。
 ギャラリーからは歓声の声があがる。
「なんだ、タクヤってひょろ男って感じだったけど、意外と男前じゃね?」
「なんか、ちょっと凄かったな」
「おい、みっともないやられ方すんじゃねえぞ!」
 何故か沸くクラスメイト達。みっともないやられ方するなだって? するだろ。
「1-1」
 ジャージ男がサーブを打った女子の方へ歩いていく。
 そしてあろうことか頬を引っぱたいた!
 小気味いい音がして、その巨体の少女は顔を横へ流した。
「何やってやがんだ! 本気でやれェ! 今度無様な返し方されたら退部だぞ!」
「はい!」

 振り返るブサイク女子A。まずい、目がマジだ。本気と書いてマジ切ってる目だアレは。
 すると、その少女へ先ほどのちっちゃい子が何やら話しかけている。
 ちっちゃい美少女最高だな……。
「フォーメーションチェンジ!」
「え?」
 小さい女の子を中央へ配置した布陣。それを取り囲むように巨体の少女が五人、対角に均衡に並ぶ。
「ゲーム再開だ」
 そういって柊がボールを受け取る。
「私がサーブするね」
「うん……気を付けて、打ったらすぐにネット際に戻って」
「おけ」

 柊は真剣な表情でコート後ろへ下がる。
「ン……」
 腹式呼吸法だ。柊は腹に力を溜めてボールを宙へ投げる。運動神経の良い彼女ならまずミスすることはない。
「――ハァッ!」
 バンと弾ける音がした。すぐさま前進する。
 繰り出したボールは速球も速球。同年代なら男子ですら取れないような速さだ。流石格闘家。
 というか、彼女がバレー部でないことが驚きだ。

     


「――ハイッ」
 それをいとも簡単に受けているあいつらはやはり人間じゃない。
「僕の想像が生み出した怪物か……?」
 トスを大きく上げたのは巨体の一人だった。体育館天井すれすれの特大トスだ。
「え?」

 次の瞬間は誰もが目を疑った。
 巨体の一人が小さい少女を腕の上に乗せている。
 小さい少女が巨体の屈伸運動に合わせて飛んだ。それも1mや2mじゃない。4mは飛んでいる。
 タクヤは本能的に後ずさりする。

「ヤアアァァ!」

 空中で少女が取った行動は両手をアンダーパスのように作ってボールを一気に叩き堕とすことだった。
 頭が一回転するほどの力運動は垂直に落ちる威力と相乗効果でただのスパイクより格段に速い!
 まずい! と思ったが後ずさりしたことが災いし、間に合いそうにない。
 センターを充分に狙える入射角度から柊を狙ったボールは柊の頭上を狙って落ちている。
「くっ――」
 ダムッというむごい音と共に柊はその場に倒れた。
「柊さん!」
「タクヤ君、ボール!」
 浮いた。しかし、それはどう考えても真っ当に浮かしたものじゃない。
 だいたい、なんでこんなことになっているんだ? 僕のイマジンクリエイトでどうとでも出来るんじゃないのか?!
「アアアアアア!」

 僕は全身の力を込めてボールへ飛びついた。
「高い……!」
 卑怯かもしれないが、丁度着地を追えた小さい少女に向かってタクヤはスパイクするしかない。
 それしか考えられない。巨体を敵に回したって荷が重すぎる。案の定その子を守るために先ほど殴られた少女が前へ出る。
 しかし、体勢不十分のでスパイクを受け損ね、少女は横へ身を引きながら倒れた。
「1-2!」
 体育館が沈黙と静寂に包まれた。
「おおぉぉぉぉぉ――――」
 クラスメイトが沸く。だが、タクヤはすぐに柊さんへ駆け寄った。

     

「大丈夫?」
「……うん」
 もう限界だろう。柊さんの腕は痛々しいほどに腫れていた。
「はやく保健室に行こう……骨折してるかもしれない」
 タクヤは柊さんの肩を持って立ち上がった。そして審判であるジャージ男に告げる。
「この試合はもういいだろ。6対2で1-2。お前たちの負けだ」

『この試合は終わる』
 僕は最後に念のためのイマジンクリエイトを行う。
「くぅ……まさか、こんなところで」
 そもそも何しに来たんだ? こいつら……。

 小さい女の子が柊さんへ駆け寄ってきた。
「ごめんなさいは言いませんよ。次は一対一でお願いします」
 まだやるつもりなのかよ。
 小さい女の子は可愛さと驚異を持った体躯で一礼して去っていった。
「名前聞くの忘れちゃった……」
「白木って書いてあった、シャツとブルマに」
「よく見てるね」
 まず全身なめ回すように見るのが僕なんだとは言えなかったが、笑ってごまかした。
 あの子たちはもとから現実にいた人達なのか、自分が創り出してしまった人達なのか、
 タクヤは複雑な気持ちでそれからイマジンクリエイトを発動させる気力も起こらずその日を終えた。

       

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Neetsha