Neetel Inside 文芸新都
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美少女70万人vsタクヤ
第十六話@受難(パッション)

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第十六話「パッション」

「馬鹿なっ、確かにお前の記憶(じかん)は崩壊したはず……」
 千尋はその華奢な両腕をタクヤに拘束されながらそう口にした。
 横目で彼の元いた位置に視線を泳がすとタクヤの姿は消えてはいなかった。
「なんなのだ、お前は!」
 驚きと恐怖のあまりに千尋は叫んだ。
「ナニってこれからお前を犯すものだけど」
 ぴったりと密着した千尋の体は抵抗らしい抵抗もできず、
 タクヤに腰を抱えられているため突き放すこともできない。
「なっ、放せ、私の体に触れるなッ」
 タクヤの過去を浸蝕するために費やした体力は既に千尋から抵抗力を奪っていた。
「着物って確か正統派は履かないんだよな?」
「なっ――?」
 それが何を意味するのかわかるまでに千尋は数秒を要した。
 確かに今自分はこの下に何も下着をつけてはいない!
「ま、まて。降参だ、降参する。だからもう――」
「ふざけるなよ」
「――っ」
 タクヤは喧嘩でもしているかのように安い怒号を吐き出した。
「俺たちは命がけで戦っていた。そして、確かに今俺は死につつあるんだ。
 それを降参だ何だと言って手を引けるわけがない。負け犬は黙って犯されろよ」
 千尋の顔から血の色がさっと引いた。
「んく――っ!」
 強引に唇を奪われた千尋の清んだ栗色の目は、ぱっと見開いて揺れた。
「んんんっ、んん――」
 勢いで暴れてみるものの、男の腕がそれを赦さなかった。
 そのままアスファルトの上に二人の体は横たわる。
「くぅ」
 着物の下にタクヤの手が伸びる。
 太股を這っていき、すぐにそこに到達した。
「ひ」
 小さい悲鳴が千尋の精一杯だ。
 まだあどけなさが残るその秘部が露わになると千尋は露骨に抵抗を示し出す。
「やだ、だめだ――あ、わ、私はっ」
「操を立てた相手でもいるのか?」

     


「ち、違う! そういうものは女なら誰だって――ゃ、イタっ」
 タクヤの中指が肉路へと滑り込む。
 そこは大変に狭く、その感覚だけでこの女が未経験であることを確信させた。

 一方、もう一人のタクヤはみつきの攻撃を受けて倒れていた。
「…………」
 それは五分ほどの出来事で、タクヤの肉体は正確にはみつきの攻撃を四十四度に渡って生身で受けていた。
 五体を保てなくなりだしたのは三十二度目の攻撃からで、
 実にそれから十二回の暴挙によってタクヤの肉体はついに有無言わぬ偶像と成り果てたのだ。
 偏にタクヤが能力保持当初に創造していた『超人的な肉体』の効果によって、
 いたずらに命を長引かせたという結果になった。
「……っ……」
 タクヤはまだ絶命してはいない。しかし、それも時間の問題だ。
 『このタクヤ』は既にこの状況下で生きながらえる方法を考えつけなくなっていた。
 健常状態ならまだしも、千尋の『時間創造』を阻む『想像創造』はない。
「凄いわね、私の攻撃にそこまで耐えられるなんて」
「…………………」
 返事はない。ただ、タクヤが自分を創造し、死に至った。
 何を思って自身の命を諦めたのか、今となっては知る者もいない……。
 そして、タクヤの事が切れた頃、ナミが静かに動き始めた。
「タク…ヤ……」
 ナミは新たにダウンロードした『タクヤが直に入力した情報』によって完全にリカバリーを果たした。
 この記憶媒体は、タクヤの脳内に埋め込まれており、タクヤがその生命活動を停止したとき、
 施設の保護や継続判断などをナミがどのような状態にあっても再認識できるように仕組まれたものだ。
 皮肉にもその機能が戦闘で使われることになるとは、あの時はまだ二人とも予想してはいなかった。
「ひいらぎ…みつ、き……」
 片言のように喋るナミが捉えた相手は、タクヤを抹殺した張本人のみつきだ。
「ナミ? どうしたの」
 様々な数字と記号がナミの視界に映っては消える。
 それは感情と理性を制御する全ての機能のトライ&エラー。
 そしてナミは全ての感情を一掃デリートすることで、タクヤの死を受け入れ、
 眼前の障害処理を行うことにした。

     


『柊みつき抹殺しますか――Y/N』
 Y.
 選択、ABCD………。
 鋭利につきたてられた空間の一角が鋼よりも高度を帯び、天に昇る爆風が一帯の雲をかき消した。
 バシュ――。
 一人の人間がその場から消えるのに、たったそれだけの音しかしなかった。
 感情を持たない自立兵器こそ始末の悪いものはない。
 ナミの下した判断は、みつきが能力保有者であるが故の粉砕からなる安全な処分だった。
 威力は肉体をミリ単位での飛散に設定したにも関わらず、
 実際には数十センチの肉片となって周囲に砕け飛んだ。
 サテライトからの科学的な攻撃が故にナミへの被害も決して少なくはなかったが、
 そんなことは問題としていないのが、ナミの現状だった。
『驚異の検索――』
『周囲の検索――』
『地形の検索――』
 …………。
 ………………。

 千尋の死んだ魚の目に光がもどったのはそんな時だった。
 何やら赤い飛沫が降ってきたのだが、それは恐らくもう一人のタクヤの方だと考えていた。
「ナミ!」
 千尋はまるで迷子が母親を見つけた時に見せる顔で、その鬼の形相を見た。
「ナミ……?」
 そこにいるタクヤは厳密にはタクヤではない。ただ、この場ですべきことと、
 タクヤがまだ能力を得る前までの記憶を持ったタクヤだった。
「ころ…す……」
「うっ、出る――」
 血に濡れたナミの顔が、タクヤに処女を貫いた時の千尋を思い出させ、絶頂が高まる。
 それは三度目くらいの絶頂で、タクヤは千尋の狭かった肉壁を押し広げるように突き込んで射精した。
「い、ゃ……」
 ごりゅっとした異物が尿道を通っていくのがわかった。
 千尋の顔は慣れない感覚に顔を歪ませて耐え凌ぐ。
 ナミはそんな二人の姿を見て、溜めていた攻撃を不完全なまま振り下ろしてしまった。

     


「は――っ」
 千尋がその攻撃に直撃し、突然呼吸ができなくなった為に気を失う。
「え?」
 タクヤは目の前で突如何らかの攻撃によって気を失った女を見て狼狽した。
 視線を上げると、目の前には見目麗しい血に濡れた乙女が佇んでいる。
『ナミ』とこの女が呼んでいたのはこの子か、とタクヤは平静に横手を打った。
「俺はタクヤ。君は?」
「……」
 しかし、いくら待っても返答を得られないタクヤは、しびれを切らして踵を返した。
「(家に返ってゲームでもしよう)」
 下で気絶してる女はどうしようかという頭が一瞬過ぎり、
 タクヤは仕方なくその着物を直して、背中に背負った。
 
 マンションのとある一室で、両手両足を縛られた少女が薬の眠りから目を覚ました。
 その姿は結衣であり、黒いスカートも制服も着崩したように乱れながら、すぐに身をよじって動きだす。
「ひやなほはんはふる……」
 口元には白い手ぬぐいがまかれており、白肌に赤い痣を見せるほどそれは強固な縛りになっている。
 アーモンド形の凜とした瞳が腰の下を睨みつけ、探ろうとする。
 横ばいではそれも満足にいかず、縛られた手首から先が黄白じみた色へと変色していった。
「……!」
 それは偶然としか言いようがなかった。
 手首のロープが木壁のささくれに偶然かかり、結衣の狙った腰下へと手を伸ばすことが出来た。
「っ――」
 気合いで引き抜いたのは指先ほどしかないおもちゃのナイフのようなものだ。
 ひっかかりをいじるとしゃきりと小気味いい音がして、刃物が飛び出す。
 小さいが、切れ味は良く、ロープはほどなくして切れた。
「ふぅ――」
 最後に脚の拘束を解くと、結衣は乱れた衣服を軽く整えて、外へと向かった。

「たく…や?」
 騒ぎの大きい方へと走っていくと、どうやら死者が二名いるとの噂があちこちから聞こえてくる。

     


 開けた大通りへ出た頃にはその戦いの凄惨さが滲み出るほどの酷い有様が伺えた。
 建物のあちこちに飛び散った血痕、血飛沫か何かがわからないそれらは何かを道のど真ん中で破裂させたような跡だった。
「タクヤー!」
 元々、結衣はタクヤを好いていたわけではない。
 しかし、今は違う。
 タクヤの存在は世の中に何ももたらしていなかった結衣の世界観にとって一縷の光に等しかった。
 キープアウトの黄色帯をくぐるとすぐに美人系警官に押さえ込まれる。
「誰だっ、誰が死んだの!」
 必死の形相に睨まれた警官は、本来黙秘すべき事柄を差し支えないように答えた。
「十五歳前後の男性と、年齢不明の女性と思わしき人よ」
 Dansei? 男性はタクヤでしかあり得ないではないか。
 だって、この街に男は一人しかいないのだから――。
「うわぁぁああ――」

 いつまでそうしていたのか、結衣の頬に空からの泡がひたりと当たり始めていた。
 初めてリンクポトン社に入ったときは、さながら気分でしかなかった。
 この街にいる男を拿捕し、この街の治安を維持する。
 意味のわからない意向だったが、気は紛れた。
 本当に男に会うとは思ってもみなくて、
 自分が何故こんなにもナイフの扱いが巧いのだとかそういうことはこの時までは何の疑問にも感じなかったものだ。

 それが、圧倒的敗北を前に結衣は自分の存在を悟った。
 良い意味でも悪い意味でも、結衣に与えられた肉体は結衣の人格全てを定義するものになっていなかった。
 だからこそ、タクヤに出会うまではレーゾンデートル(存在理由)がない、
 創造物でしかないと心のどこかで自覚していた。
 私が私たらしめるもの。
 それは、産みの親に必要とされることに等しいものだった。
「あぁ……」
 小さく呻いた少女の瞳から一縷の涙が消える。
 大降りになる雨の中、結衣は一人、誰も知らぬ場所へ帰ろうと決めた。



       

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