Neetel Inside 文芸新都
表紙

短編集(『雨の日、二人で歩く道』更新)
空からサンタがふってきて

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その日はとても寒い夜で、わたしとお兄様は空から舞い落ちる白い粒を眺めながら、お父様の滑稽な顔を思い出してはクスクスと笑い、手をつないで雪で覆われた真っ白な道を二人きりでとことこと歩いていました。
 お兄様の手は力強く、とても暖かくて、わたしはお兄様の体温が体中に伝わってくる気がして、なんだかとてもうれしくなり、お兄様のほうを向いて微笑むと、お兄様もやさしく笑ってくださいました。
 わたしもお兄様も解放感でいっぱいで、目に映るすべての光景が新鮮に思え、普段ならなんでもない木々の姿や、紅潮した頬に吹き付ける気持ちのいい寒風も、みんなわたし達を祝福してくれているように見えました。
 なにせわたしたちはついにあの男から、お父様から解放されたのです。
 わたしはまだあのときの感触が、お父様の頭を何度も何度も繰り返し叩き潰したときの、あの寒気にも似た感触が手に残っている気がして、思わず体を小さく震わせると、お兄様はそのことに気づいたのか、わたしの手をより強くぎゅっと握ってくれました。
 お兄様の手の温もりを楽しみながらしばらく歩いていると、どすんという音とともに突然人が目の前に落ちてきました。
 それは赤に白の縁どりをした服を着た小太りのお爺さんで、手には白い大きな袋が握られていました。わたしたちはそれが本物のサンタクロースだとわかりました。なぜかはわかりませんがそう思ったのです。きっと誤ってトナカイから落ちてしまったのだと思いました。
 サンタさんは頭を強く打ち付けたらしく、気を失っていて目を回しながら、ときどきううんと苦しそうにうめいていました。
 わたしとお兄様は相談してサンタさんを家につれて帰ることに決めました。サンタさんは小柄でしたが、太っていたので運ぶのにとても手間取ってしまい、家についたときには二人ともぜいぜい言っていました。
 家に入りサンタさんをベッドに寝かせると、わたしたちはサンタさんが持っていた袋に何が入っているのか確かめることにしました。
 中をのぞいてみましたが真っ暗でよく見えませんでした。逆さにしてみましたが何もでてきません。おかしいなと思い、わたしが手を入れてみると小さなお人形さんがでてきました。それはわたしが以前お店で見かけて以来、ずっと欲しい欲しいと願っていたお人形さんでした。
 お人形さんのかわいらしい目や小さなお顔を見ていると思わず頬がゆるみ、わたしは何だか胸がいっぱいになってお兄様に抱きつくと、お兄様はわたしの頭をそっとやさしくなでてくれました。
 ひょっとしたら……とお兄様はつぶやいて、袋の中に手を入れて中から大きな斧を取り出しました。わたしはびっくりして目をぱちぱちさせながらお兄様の顔をじっと見つめました。お兄様はなるほどといった感じでうなずいています。
 お兄様は、この袋からはね、僕たちが欲しいと思ったものが何でも手に入るんだよ、この袋は僕たちのものだ、僕たちだけのものにしよう、と言いました。
 わたしはそのことがすぐには信じられませんでしたが、実際にわたしが欲しいと思っていた人形が手に入りましたし、お兄様の言うことなのだから間違いないと思いました。
 わたしはうれしくなって、お兄様これでわたしたち二人だけで生きていけるね、誰の手も借りずにお兄様とわたしだけで暮らしていけるのね、とお兄様にキスをするとお兄様は、そうだよ、僕らはもう苦しむ必要はないんだ、これは神様がくれたクリスマスプレゼントなんだよ、と言ってわたしを抱きしめてくれました。
 わたしはそれじゃあとつぶやいて、ベッドの上で寝ているサンタさんのほうを向き、あのサンタさんどうするの、と聞くとお兄様はまたわたしの頭を軽くなでて、そのためにこれを出したんだよ、と手に持っている斧を見せびらかしました。
 わたしはその斧を見てまたお父様を殺したときの感触を思い出して体が震えました。お父様はよくわたしたちを気が失うまで殴りました。わたしたちがどれだけ泣き叫んでも、お父様は殴ることをやめず、むしろわたしたちの苦痛にゆがんだ表情を楽しんでいるかのように見えました。
 お腹を何度も何度も蹴り上げられて血のおしっこが止まらないときや、気絶するほど殴られたせいか耳から血が流れでて、めまいと吐き気がおさまらず、このまま死んでしまうんじゃないかと二人で体をよせあってガタガタ震えながら眠ったときもありました。
でも何よりもつらかったのは、気絶するまで殴られたあとのあの行為でした。はじめてされたのはまだ十歳くらいのときだったと思いますが、そのときの痛みと嫌悪感は今でもいやというほどはっきりと覚えています。
 お父様はわたしの口をおさえつけ、恐怖のあまり震えているわたしの様子を味わうかのようにして服を一枚一枚脱がしていき、そうしてわたしを犯しました。
 体を切り裂くような痛みが襲い、わたしはお父様やめて痛いやめて、と何度も泣き叫びましたが、お父様はそのまま行為を続け、しばらくしてううっという小さなうめき声と一緒にお腹の中に熱いものが吐き出されました。その夜わたしはお腹の中の異物感が消えず、気持ち悪くなって何度もトイレで吐きました。
 お母様は助けてはくれませんでした。特にわたしはお父様との関係が知られてからは、ずっと嫌われていて、ろくに食事ももらえないときもありました。もっともお母様はわたしとお父様の関係が知ってからは少しおかしくなってしまって、突然泣き叫んだりわめきちらしたり笑い出したりして、ある日首をつってさっさと死んでしまいました。
それからは毎日のように犯されました。お兄様と一緒のときもありました。わたしの前でお兄様が犯され、お兄様の前でわたしが犯され、そんな日々がずっと続きました。
 そして昨日、わたしがいつものようにお父様に顔が鼻と同じ高さに腫れ上がるぐらいまで何度も殴られた後、またあの行為を始めようとお父様がズボンを脱ごうとしているときのことでした。
 突然お父様が倒れたのです。お父様のうしろにはお兄様がバットを手に持って立っていました。お父様は両手で頭を抱えながら、床の上で羽をむしられた虫のようにバタバタと這いずり回ってうめいていました。
 お兄様はわたしの方を向くと、にっこりと微笑んで血のついたバットを渡してくれました。わたしはバットを受け取るとお父様の方を向き、大きく振りかぶりました。
 お父様は顔を上げてわたしの姿に気づくと、顔をくちゃくちゃにして、やめろ助けてくれお願いだから、と叫びました。わたしはその怯えた顔の真ん中をめがけて思いっきりバットを振り下ろしました。
 赤い血しぶきがあがり、わたしの服にきれいな模様をつくりました。お父様はひいっと短い悲鳴を上げて、両手で顔をおさえてまた床の上を這いまわりました。その両手の隙間から見えるお父様の苦痛にゆがんだ表情がとても滑稽で、わたしとお兄様はお腹を抱えてしきりに笑いました。笑いながらお父様の頭に何度もバットを振り下ろしました。お父様はカエルがつぶれた様な声で泣きました。やがて一度びくんと痙攣したかと思うと、そのまま何度殴っても動かなくなりました。
 バットを持ったままお父様の死体を眺めて体を震わせているわたしを、お兄様はやさしく抱きしめてくれました。わたしたちは返り血で真っ赤になった服を着替えもせずに、抱き合ったまま眠ってしまいました。
 そして今日、わたしたちはこのサンタさんを拾ったのです。
 お兄様はベッドの横に立ち、サンタさんの左足に斧を振り下ろしました。ようやく目が覚めたらしいサンタさんはひぎいいいいいいっと甲高い声を上げました。
お兄様は続けてサンタさんの右足にも振り下ろしましが、今度はうまく切断できず、刃が途中で食い込んでしまったので、お兄様は左足をサンタさんの右足にかけて斧を引っこ抜くと、血しぶきがお兄様のお顔まで飛び散りました。
 サンタさんは苦痛のせいでベッドの上で暴れるので、ほんの少しの肉と皮でようやくつながっている右足がぶらぶらと揺れ、骨と血肉がのぞいていました。
 わたしはその様子を見ているとまたあの寒気に似た感触を味わいたくて、いても立ってもいられなくなり、お兄様わたしもわたしも、と叫ぶとお兄様は、それじゃあ袋から好きな道具を取ってきなよ、と言いました。
 わたしは袋からメスを取り出し、ねえお兄様昔よく遊んだみたいに解剖ごっこしましょうよ、と言うとちょうどサンタさんの両腕を切り落としたお兄様は振り向いて、いいねやろうやろう、と答えてくれました。
 わたしはサンタさんの服を脱がせて、メスを胸からおへそまで一気に線を入れると、線は赤く色づき少し遅れて血があふれ出しました。サンタさんがしきりに泣き叫ぶので少しうっとうしく思い、喉を切り裂くと、血泡があふれてサンタさんの目玉がぐりんと上を向き、そのままお父様のときのようにびくんと痙攣しました。わたしはそれを見て、お兄様サンタさん壊れちゃったね、と言うとお兄様は、そうだねサンタさんも人間と変わらないんだね、と笑いました。
 わたしはサンタさんのお腹を開いて、ねえお兄様人間もカエルもそんなに中身は変わらないみたい、と言うとお兄様は、そうだよ人間もカエルも臓物と糞のつまった皮袋にすぎないんだよ、と答えました。
 えぐり出したサンタさんの目玉を舐め回しながらお兄様は、世界の幸せの総量っていうのは決まってるんだよ、誰かの不幸は誰かの幸せになり、誰かの幸せは誰かの不幸につながるんだ、僕らが苦しんでいたとき父さんが幸せだったようにね、と言ったのでわたしは、じゃあお兄様今度こそわたしたち幸せになりましょう、みんなを苦しめて殺して不幸をばらまいてわたしたちに幸せが来るようにしましょう、と言って笑いました。
 お兄様はわたしを抱き寄せてやさしくキスをすると、うんそうだね二人で幸せになろう、たくさんたくさん人を殺してたくさん幸せになろう、と言って微笑みました。
 わたしとお兄様は袋を持って外に出ました。時間はもう夜の十一時を回っていましたが、クリスマスなので家々にはたくさんの光が灯っていました。お兄様は袋の中から銃を取り出すと目にとまった家の窓に次々と弾を撃ち込んでいきました。驚いて窓を開けたおばさんも撃ちました。銃声があたりに大きく鳴り響き、真っ暗だった家にもどんどん明かりがついていきました。
 お兄様はわたしのほうを向いて、さああの光を全部消していくんだその分だけ僕らは幸せになるんだよ、と言ったので、ええお兄様たくさんたくさん幸せになりましょう、と言ってキスをした後、わたしたちはさっき撃ち殺したおばさんの家にあるクリスマスツリーを眺めながら、メリークリスマスッ、と叫びました。

       

表紙

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