Neetel Inside 文芸新都
表紙

収奪物

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ただ流れてゆく赤い血潮だけが
私の瞳の現状を知らせていました

救急車に乗りました、生まれて初めてです
ただ嗚咽を漏らしていたことしか覚えていませんが

通り魔に突き立てられたボールペン
眼球に完全に突き刺さっていて、眼球の摘出をしたそうです

犯人は簡単に見つかりました
別の事件で逮捕され、あっさりと自供したのです

犯人は、高校でのクラスメイトでした

「人の人生を崩せるのなら、自分の人生を対価に払ってもいい
 そう思ってやりました。」

悪びれもせずに、彼はこう言い放ったそうです
初めの事件から逮捕までの3日間
彼は通り魔を繰り返したそうです。

初めから逃げる気はなかった。
彼は週刊誌へと、ファックスを送っていました

「僕の平凡な人生1個と、幸せになるであろう人の人生10個
 秤にかけると、僕は対価を払っても良い。
 そう思いました。今は凄く晴れ晴れとした気分です
 もうすぐ僕は捕まるでしょう
 なので、僕の言葉を流してください、流してください」


彼の自己満足のために、私は瞳を失ったのです
憎いです。彼が憎いのです。

しばらくの休みのあと、私は高校へと戻りました。
ぽっかりと空いた眼窩を隠すため
私は常に眼帯をつけていました。

しかし、うわさは既に広まっていました
目の無い女 気持ちが悪い あいつは恨みを買っていた
悪女なんだ 悪女なんだ 自業自得

私は付き合い始めて1週間の彼氏がいました
守ってやる、そう言っていた彼でしたが

すぐにほかの女へ逃げました。
私の友達でした。
いいえ、元友達です

気持ちが悪い、あいつと付き合ってられない
彼はこう言っていたそうです。
瞳に続いて、私は彼氏を失いました

活発だった私は、通り魔の彼
彼にも優しく接していました
何故そんな私がこんな目に会わないといけないのでしょうか?


私は高校を辞めました
周りの言葉に耐え切れなくなったのです

通り魔の彼の言うとおり
私の人生はぐちゃぐちゃになりました



嬉しいですか?嬉しいですか?嬉しいでしょうね?





幸せです、幸せです、幸せです


高校をやめた私は働き始めました
目の無い女に客商売はできません
そう断られ続け。
やっと手にした仕事です


私は運命を感じました。
すべてを受け入れてくれる
優しい人を見つけたんです。


幸せだ、幸せだ、幸せだ。





両親が泣いています
私も泣いています

結婚詐欺でした

全部、虚像でした

目を失った私は、信用する心を失いました。



義眼を作ったんです

たくさんお金がかかりました
ですが、両親が出してくれたのです
私のこれからの幸せのために
まずはこれが第一歩だと。

あれから私は、身勝手に生きてきました

私は感謝の心をいつのまにか失っていました

だけど、私は失ったものを、一つ一つ
取り戻していこうと、決意することができました

私は、仮初の目を手に入れました





義眼をつけた日

私はとても幸せでした。
何もかもが戻ってくる
そんな風にも思えました

私はまだ、21
まだまだやり直せる。

あぁ、ステキです。
顔を隠さなくてもいいとは

ステキなことでした。

ああ、幸せです。






両親が亡くなりました

義眼を付けた次の日でした
少しの幸せは、耐えがたい苦しみを呼び込みました

私はまた、家にこもりがちになりました。






両親が死んでから2年

両親の少しの遺産をやりくりして
どうにかこうにか生きています
その資産を運用して、これからもラクできる
そんな夢のような話があるそうです

そうです、株です。

信用取引というものを使えば
自分の運用できる資金が一気に倍増します

またしても、希望が見えてきました

私は久しぶりに外へ出かけ
宝くじを一枚買いました。

○×○×組 △◆●○□▲◇

抽選日は数ヵ月後
いいんです、当たらなくたって。
気分を明るくさせる材料ですから








私は今、崖へと来ています
2ヶ月もしないうちに私の敗北は決定的になりました
私の買った株は大暴落しました

多額の借金を抱えた私は、義眼の交換の時期が迫るのに
それを交換するお金もないのです。

あてもなくぶらつく街
私はショーウインドーに写った自分の顔を見たんです
赤く化膿していました。
医者にかかるお金もないのです

よれよれの服を探ると、宝くじが出てきました

私はそれにサインペンで簡単に遺書を書くと
それを石で抑えました。

思えば、私は彼の思い通りになりました
彼のせいで人生をめちゃくちゃになったのです
彼のその後は知りません
しかし、彼を呪うには十分です。

死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ

私は私という人間がいなくなるその瞬間まで
もううろ覚えになったクラスメイトを憎みました。





「宝くじの1等賞とかが換金されないことがあるんだってさ」
「どーせ当たらんと思って確認しない人がいるんだろ?」
「もったいないよな、3億円もあれば人生変わるぜ?」

高校生2人が、そんな話題で盛り上がっていました。
彼らの歩く道端には1ヶ月ほど前の古新聞が風に運ばれるがままになっています





1等 ○×○×組 △◆●○□▲◇

       

表紙

帰ってきた生物筆頭 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha