Neetel Inside 文芸新都
表紙

満州国
毛虫

見開き   最大化      

地面を這う毛虫を見つめているのは小学生の自分だ。
一年を無限にも近い時間に感じ、永遠に大人になれないとかそんなことを考えたりする年頃だ。
今でも大人になるなんて信じられないが、成人まであと4年に迫っている。
自分は、秒速3ミリメートル程度の速さで地面を移動する毛虫をウンコ座りで追いかけた。
毛虫が道路にでればその後を追い、車がクラクションを鳴らし、ドライバーが「轢かれたいのかこのクソガキ!」など怒鳴り散らすのもかまわずに追いかけ続けた。
小学校を通り、住宅街を抜け、河川敷を越え。あたりが暗くなっても毛虫の追跡をやめなかった。
永遠に毛虫を追いかけることができると思っていたが、追跡の終焉はあっけなかった。
毛虫は自分の目の前で踏み潰された。
実際には一瞬のことだったはずだ。けれども、自分はあのときのスローモーションのような光景を忘れない。
背広を着た男の足は、柔らかく、白い毛虫の体に圧力をかける。
口から白い液体が噴出し、顎を一杯に広げ、毛虫は断末魔の様相を散々自分に見せつけた後、足の下へと消えた。
男が通り過ぎた跡に残った毛虫の残骸を自分は観察し続けた。
放射状に広がった体液、平べったく地面に張り付いた白い皮、無傷で残った頭部。
それは蟻がつぶれた毛虫の周りに集まってくるまで続いた。

あの時のしつこさや信念は今の自分に残っているだろうか。
過去のトラウマを思い返しながら目の前に広げられた真っ白なテスト用紙へ鉛筆を転がす。
上部に書かれている数字は2。
「イ」の項目に丸をつけ、ため息をつく。


       

表紙
Tweet

Neetsha