今日も篠崎さんに掃除当番を押し付けられた。これで何度目なのだろうか。
 彼女は今日も放課後は用事があるからと言って、友人数人といっしょに帰っていった。きっと遊んでいるのだろう。
 嫌ではない。地味で暗い私でも必要とされているから。無視されることに比べれば何の苦でもない。
 でもなんだろうか。今日に限って少し苛立ちを感じた。いつの間にか箒を握る手に強い力が込められていて自分でも驚く。
 まるで自分が自分じゃないような感覚。というのはさすがに言いすぎかもしれないけど、自分の中に変化が起きているのではないかと感じた。


 今日の夕飯は私の嫌いなピーマンの肉詰めだった。お母さんは私がピーマンを好まないことを知らない。もちろん私がそう伝えていないからだ。
 私は自分を生んでくれたお母さんに感謝しているし、毎日料理を作ってくれることにもありがたみを感じている。だから今まで食べ残しなどはしたことがなかったし、好き嫌いがない子を演じてきた。でも今日だけはどうしてもピーマンを食べる気にはなれなかった。どうして今日はピーマンなの!? と文句を言いたくもなった。私らしくない。
 とりあえず、今日は食欲がないと言ってピーマンを残して自室へと戻った。すぐにお腹がすいて、少しイライラした。


 今日は篠崎さん以外の人に掃除当番を押し付けられた。きっと私が断るわけがないと思っているのだろう。その通りだから仕方が無い。私は快く引き受けた。つもりだった。
 掃除を終わらせて用具をロッカーの中に入れると、思い切り扉を閉じた。大きな音が教室に響く。私以外に人はいないので気にしない。
 とうとう物に当たってしまった。そうでもしないとこの苛立ちを抑えられなかったから。冷静になれと自分に言い聞かす。
 それでも落ち着かなくて帰りに私に掃除を押し付けた子の上履きを盗むと、学校の敷地内にあるどぶに捨てた。すっきりした。
 次の日その子が、上履きが無いと騒いでいるのを見てとてもいい気分になってしまった。しばらくして自己嫌悪に陥った。


 今日はいつものごとく篠崎さんに掃除当番を押し付けられた。もちろん私は素直にそれを了承する。いつものことだ。
 掃除を終わらせる。いつもより雑にやったから、所々に汚れが残っていたが、そもそも私がやる必要がないため、放置した。
 篠崎さんのロッカーを見る。教科書などが乱雑にしまわれていた。家には持ち帰らないタイプなのだろう。中身を全て取り出すと、学校の敷地内にある焼却炉の中に捨てた。
 次の日篠崎さんが、教科書が無いと騒いでいた。クラス中の人にお前がやったのか? と聞きまわっていた。もちろん私も聞かれたが、知らないと答えた。でも最後までこの教室にいたのは私なので篠崎さんは私を疑い続けた。


 今日は久々にお母さんの手作りのお弁当を食べた。私の父は数年前に他界しており、今はお母さんが一人で私を育てている。そのため、朝は仕事の関係で忙しく、昼食はいつもコンビニで購入していた。
 久々のお弁当が嬉しくて、私はついつい笑みをこぼしながら食べていた。
 クスクスと笑い声が聞こえた。篠崎さんたちが私に聞こえるくらいの声で私の悪口を言っていた。一人でにやにやしながらお弁当を食べている私が気持ち悪いらしい。
 私はその声を無視してお弁当を食べた。とても美味しかった。
 お弁当を食べ終わった後、私は保健室に行って早退の手続きをとると、駐輪場にあった篠崎さんの自転車を近所の小さな池に沈めてから自宅に帰った。


 今日は学校が休み。私はビデオショップで映画を何本か借りて見ていた。この時間が人生で一番落ち着く。とても幸せな一時だ。
 二本目の映画を見ている途中で飼い猫のミーナが私の方へと寄ってきた。ミーナは構ってほしそうに鳴いていたが、映画に集中していた私はそれを無視した。鳴き声がうるさくてイライラした。
 我慢して私は映画を見続ける。するとミーナは私の腕を鋭い爪で引っ掻いた。痛みを感じて腕を見る。赤い血が傷口から滴っていた。頭が真っ白になる。
 気付くと私はミーナの首を強い力で絞めていた。ミーナはぐったりとして動かない。私はこの子を殺してしまったらしい。お母さんにバレたら大変だと思い、ミーナを袋につめて、近所の公園に埋めた。
 その夜お母さんがミーナを知らない? と私に聞いてきたが、私は知らないと答えた。驚くほど冷静に、慌てることなく答えた自分にびっくりした。


 今日は月曜日。休み明けの教室に私の教科書はなかった。ロッカーの中も、机の中も、どっちも探したけど見つからなかった。篠崎さんたちがにやにやしながらこちらを見ていた。
 教科書がないとまともに授業を受けることができない。私は隣の席の人にあらかじめ授業になったら教科書を見せてと頼んだ。しかしその人は私の言葉を無視した。聞こえていないようなふりではなく、誰かにそう強いられているような、そんな印象を受けた。篠崎さんたちがにやにやしながらこちらを見ていた。


 帰り道。篠崎さんたちが私に話しかけてきた。つまらないことで私に文句を言ってくる。数人に引っ張られ、人気のない路地裏に連れて行かれた。
 お前が私の教科書隠したんだろ、と言いながら私のお腹を蹴り飛ばした。私は地面に倒れる。篠崎さんたちはけらけらと笑っている。
 私は立ち上がると、ポケットに手を入れる。棒状の物があったので手にとった。いつの間に買ったのだろう。それは果物ナイフだった。


 気が付くと視界が赤く染まっていた。足元には鮮血に濡れた肉片がいくつも転がっている。篠崎さんたちだったものだと少ししてから気付いた。
 記憶が蘇る。肉に刃をたてる感触、彼女たちの悲鳴。すべてが鮮明に甦る。
 愉快だった。愉快でしかたがなかった。肉片を踏む。ぐちゃりと音をたててつぶれる。気持ちいい。
 ああ、大声で叫びたい。堪える必要なんてないじゃない。表情が愉悦に染まるのが分かる。笑おう。本能のままに私は声をあげる。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
 路地裏に響き渡ったのは、笑い声ではなく“産声”だった。