Neetel Inside ニートノベル
表紙

たったひとつのバグ
捜査

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「え~っと。ここに何しにきたのかな? 燕尾くんは?」
 一人暗い病棟を歩く。
「う~……怖いなぁ~」
 やはり夜の病院は昼の病院とは違う。だから、
「姉ちゃんさぁ~。もう帰ろうぜ~? 意味ねえってば」
 わたしの弟、友和を連れてきた。
「だめなの! でないと距離が詰められないの!」
「し、静かにしろよっ」
 慌てて静かにする。壁に反響したわたしの声だけが残っていた。
「はぁ~……なんでそんなにあの燕尾ってやつに入れ込んでんのかなぁ~……姉ちゃんのルックスだったら男なんかいくらでも作れるのに」
「ダメなの。燕尾くんでないと意味ないの」
 それは弟にとって褒め言葉なのだろう。だけどわたしはそんなの嫌味にしか聞こえない。確かに自慢じゃないがわたしはスタイルにも顔にも自信はある。
 でも、燕尾くんがわたしに振り向いてくれないと意味がない。どんなに男が周りをうろつこうとその中に彼がいないと意味がない。
「てかさ~、なんでそんなに入れ込んでんの? 昔はそんなんじゃなかったのに」
「む、昔は関係ないでしょ!! そりゃ、確かにヤンチャしてたけど……」
「ヤンチャどころじゃねえだろ。ヤンチャで893さんとつるんだりしねえし」
 やっぱりやりすぎたかな……あの頃は。
「そういやさ、最近893さんとつるんでねえな。なんで?」
「……燕尾くんが教えてくれたんだよ。人を思いやる優しさを。そして人の怖さ。裏切り」
 わたしの世界は燕尾くんだけ。燕尾くんさえいればあとはどうでもいい。戦争でも核爆発でもなんでもやればいい。わたしと燕尾くんの命さえ保障できれば。
「ふ~ん。いろいろ世話になってんだな」
「そうそう。恩人でもあるんだからね」
「あ? それどーゆー……」
「あぁ、ここらへんだったよね。確か」
 ラミアちゃんと花梨さんと、燕尾くんが話していた入り口のまえにわたしたちは立っていた。
「井口 京螺……? あいつの女か?」
 少し殺気を表していた。多分わたしのことを思って怒っているんだろう。その純粋な気持ちは嬉しい。でも逆に不安にもなる。この純粋な気持ちもいつかは汚れる。それともいいように利用されるかもしれない。わたしも汚れた心を持っている。
 昔はこんな心が当たり前だと思った。でも今は罪悪感で押しつぶされそうになる。自殺をしたくなる。やっぱりそれだけ酷いことした。いまでもそうだ。
 ここから飛び降りれば楽になれるのかな?とか思ってしまう。行動も起こしたくなる。でもわたしはしない。燕尾くんが生きているから。
 コンコンとノックする。
「はい? お兄ちゃん?」
 嬉しそうな声が聞こえる。元気そうな声だ。とても入院しているような人の声ではない。
「もう、入ってくればいいのに」
 嬉しそうに笑いながら扉を開けてくれる。
「ほらぁ、おにい、ちゃ、ん?」
 誰?と言う顔をしている。まぁ、これが初対面だから当たり前か……
「初めまして。わたし燕尾くんの、クラスメイトです……」
 胸が張り裂けそうだった。いっそのこと彼女って言えばよかった。
「あ、そうなんですか。スミマセンわたし勘違いしちゃって」
 やや俯き顔を赤くした。
「わたし、お兄ちゃんの妹です。とりあえず中へどうぞ」
「ありがとうございます……? どうしたの? 入ってきなよ」
 入り口で突っ立っている馬鹿に声をかける。
「………」
「? どうかしましたか?」
「ほ……」
「ほ?」
「惚れた! 付き合ってくれ!」
 何も持っていなかった手に京螺の手を強く握る。
「一目ぼれした! 付き合ってくれ!」
 もう一度声を出す。
 こいつは家でじっとしてたほうがよかったかもしれない……
「ハァ……」
 ため息をこぼす。どうしようこの空気。

       

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