5-5.でも山菜が何をしてくれるっていうんだ。
にんじん畑のにんじんが発射されて兎はその中の一つに飛び乗った。僕は置いていかれたくなかったから兎の尻尾を掴んでぶら下がった。
にんじんと兎と僕は木のすぐ上をすごい速さで飛んでいく。どこへ向かっているんだろうどこを見てもなにもない。
兎は尻尾が痛くてずっと僕を睨んでいる。
僕はごめんねごめんねって言いながら落ちないようにもっと強く掴んだ。
森をずーっとずーっと行くと大きな山が肉棒のようにそそり立っていた。
にんじんは山の斜面を滑るように昇ってどんどん上へ向かう雲を突き抜けたけど頂上は見えない。きっと世界で一番高いんだ。
他のにんじんも頂上を目指して昇っていくんだけど山は段々細くなっていくから僕のまわりはにんじんだらけになってしまった。
「ワーイ!ここはにんじんパラダイスだ!!」
にんじんパラダイスには僕とトムソンと羊飼いのジョグリーと豆腐屋の娘のジージーだけが到達出来た。
僕たちは互いに幸福を称え合って故郷の心配をした。
「私たちどうなるのかしら」
ジージーが言った。豆腐を持つ手が震えてて見てられなかったけどかける言葉は見つからなかった。
僕もどうなるのか心配で大丈夫だなんてとても思ってなかったからだ。
「大丈夫だよ」
ジョグリーがそう言った。
僕は「どこが大丈夫なんだよ」って彼を殴ってやりたかったけど出来なかった。
ジョグリーの親友ベンジャミンはにんじんに体当たりして骨折して入院中だし、同じ羊飼いのライアンやジョグリーのお母さんの再婚相手の妹は悪いにんじんを食べ過ぎて危険な状態だし、途中で脱落していったともだちの8割はジョグリーの知り合いだった。
だから、僕らの前でにんじんから落ちた何人もの人たちがどうなったかわからないけど僕だったらきっと泣いてしまうのに平気な顔してみんなのことを気づかってるジョグリーにどこが大丈夫なんだよって言って殴るなんてとても出来なかった。
でも僕はジョグリーを尊敬の眼差しで見つめるあまり後ろから飛んできたにんじんに気づかなかった。
「危ない!」トムが何か言ったけどもう遅くてにんじんは僕をかばって飛んできたジョグリーに命中した。にんじんは爆発しなかった。
「不発だったみたいだ」
だけど僕を守るために自分のにんじんから飛び降りたジョグリーはもう僕らと一緒にはいられなかったジージーが悲鳴を上げた。
「ジョグリーーー!!!」
落ちていくジョグリーの足をトムが掴んだけどトムの乗るにんじんのすごいスピードが二人を引き離した。
「ジョグリー!どれでもいいから早くにんじんに乗るんだ!!」
ジョグリーはにんじんに乗ろうともしないで叫んだ。
「みんな!!」みんな、なんだよ!ジョグリーの影はどんどん小さくなっていくけど声は聞こえる。
「みんな、あの、」早く言えよ!
ジョグリーはもう見えなくなった。
見えなくなってからも視線の先に彼がいるんだと信じて僕らはずっと下を見続けた。
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