Neetel Inside 文芸新都
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2-2.光に気が付いて僕は恐ろしくなった。

自分の手足も見えなかった暗闇がいつの間にか消えて森の細部までが浮かんできた。
目がなれたのではなく、太陽の光がどこからか洩れているのだ。そのことは第2巻41ページの図1-1を見ればすぐにわかっていただけると思う。
森は進むほどに明るくなり、光の原因がこの先にあることを知った。

入り口だ。森の入り口があるのだ。
僕に庭にあったような入り口がこの壁のどこかにいくつも存在していることは想像が出来る。
その入り口から差し込んだ光が森を明るく照らしているのだ。森に入ったときすぐなにも見えない暗闇が現れたことを考えると、入り口はそれほど遠くない場所にあるらしい。

僕は調子にのって壁から2メートル34センチも離れた場所を歩いていて、
蘇った視界を堪能しながら足元の肉棒を避ける事に夢中で目の前の死体に気づかなかった。

耳が奇妙なほど長くて驚いた「耳長い!」兎の死体が小さな樹に吊るされていた。
僕は驚いて叫んで立ち止まりそれきり言葉は出なかった。樹は身動きが取れないほど近くにあったし僕は進むことも戻ることも忘れていた。
兎は動いているように見えた。手を伸ばして僕に語りかける幻覚だった。「戻るんだ。この先に行っちゃいけない」
幻覚の声を知っていた。肉棒につまづいて転んだ僕に声を掛けたあの兎だ。

「幻なら消えてしまえ!それとも僕のこの肉棒で貫いてやろうか!」

幻覚には慣れていた。僕は4歳のときからよく幻覚を見た。「戻るんだ。戻らなくちゃならない」
兎はまだ何か言ってて僕は助けようと兎を地面に下ろそうとしたけど手が滑って落下した。
地面から生えた何本もの肉棒がその身体を貫くと身体の下から少しずつ少しずつ青い血が染み出て土を伝わって僕のスニーカーを汚した。
兎は死にそうだったけど違う僕は助けようとしたんだ。「戻ってやるべきことをやるんだ」
兎はそう言って動かなくなった。多分もう二度と動かないだろう。
身体から突き出た何本もの肉棒がその血できらきら輝いた。死体はとても小さくて頼りなく見えた。
それはさっきまで生きていたことをまるで忘れて僕には森の一部に思えた。
気味の悪い植物や気味の悪いキノコと同じ気味の悪いただの死体に思えてならなかった。
だから4歳のときから周りで跳んだり跳ねたりしながら一緒にポルカを踊った僕の幻覚を抱きしめることが出来なかった。
僕の肉棒ではなく誰のか知れない何本もの肉棒に貫かれて死んだことや彼が吊るされていたのではなくただ木登りしていただけだったことが僕を苦しめて
彼に許しを請うことを拒んだわけじゃないただ怖かった。ただ怖くて怖くて恐ろしくてその場所から離れたくて僕は兎に触れないで逃げ出した。
でも僕は助けようとしたんだ。

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