Neetel Inside 文芸新都
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2-3.走って走って壁の割れ目で立ち止まった。

兎の血がスニーカーについてスニーカーについた血が土や枯葉に混ざった泥団子を僕に食べさせようとするかのように青い青い血は薄汚れて僕は汚れた服に目をやった。
僕は何をしているんだろうと考えた。
森の中で一300円とライターだけもった僕に何が出来るって云うのだろう。逃げてるだけじゃないのか?

「戻ってやるべきことをやるんだ」兎はそういって死んだ。
戻るって何処に?
やるべきことを?それって何?
しなければならないことをしなければならないわかっている。僕にはやるべきことがある。

森の入り口から外を見た。僕のいたところとは違う、もっと大きい街だ。
この街に僕の兄が住んでる。僕と違うところで育った1歳違いの兄で、僕は兄に会って話さなきゃならない。
兄の家は赤い屋根で赤いポストが置いてある。この森を出て左に曲がると目の前にある。
それに僕は兄の肉棒が見てみたいと思った。生まれてから一度も僕は彼の肉棒を見たことがなかった。
兄の肉棒を見ること、それは僕にとって避けることの出来無い使命、目的のように感じられた。
それに比べて、僕は何のために森へ入ったのだろう・・・・?果たして僕は本当に森へ向かうつもりだったのだろうか。
それとも何かのはずみでついうっかり?

たくさんの人が歩いているけど誰一人僕やこの割れ目のことに興味がないみたいで僕は異邦人のような気持ちになった。
彼らはきっと僕の肉棒にも僕と僕の兄にも僕の父にも僕の幻覚にもドッペルゲンガーにも山菜や僕の母にも、何の興味も無いのだと思った。
服についた涙を拭くとその部分だけ泥が落ちて綺麗になった。

シャワーを浴びよう。兄に会ってシャワーを借りて身体と肉棒を綺麗にして新しいシャンプーを買って新しい服を買ってそれからライターはどこかへ捨ててしまおう。
目の前の店にはいろとりどりの綺麗な瓶がディスプレイされていたエリクサーと書かれた商品には死後30分以内なら100%蘇生できますという説明書きがあって、
兎に効果があるのかわからないけど300円だった。



そうだ。
僕にはやらなきゃならないことがある。戻らなきゃ。戻るって何処へ?


ポケットの300円を握り締めたまま僕は森へ戻った。

街には本当にたくさんの人がいたけど誰も僕に気付かなかった。

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