Neetel Inside 文芸新都
表紙

山菜
1.思い出(1)

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1-1.家の庭から採れた真珠を月に一度市へ売りに行くのが父の仕事だった。

スコップで庭を掘る姿はとても格好良くて、何も取柄が無かった僕にとってそんな父と真珠の良く採れる家の庭は数少ない自慢の種だった。
父は暇人でよく僕と遊んでくれた。僕は友達が少かったから休日はほとんど父と遊んだ。
夜になると父は肉棒を見せてくれた。

「これが俺の肉棒だ。よく覚えておきなさい」

父の肉棒はいつも大きくてぎらぎらと輝いていた。
でも、肉棒を見せてくれるのはいつも一瞬だけで、毎日見せてくれるというわけでもなく、機嫌の悪い日はどれだけ頼んでもだめだった。

たまにしか見せてもらえない父の鉄杭のような肉棒を僕は何時しか神格化し崇拝するようになった。

父は時々シャベルの扱いや真珠の売り方について話したが、僕に真珠を触らせてはくれなかった。一緒に市場まで行くことはあったけれど真珠を持つのはいつも父だった。肉棒についてもそうだった。父は自分の肉棒を決して人に触らせようとしなかった。

「松田君はみんなに触らせてくれるよ」
学校の同じクラスにマツダ君という子がいて、彼の家のポストからは良くダイレクトメールが採れた。
マツダ君は時々家からダイレクトメールを持ってきてクラスの皆に見せていた。
「触ってもいい?」と聞くとマツダ君は嫌な顔一つしないでダイレクトメールと肉棒を僕に触らせてくれた。
僕がその話をすると父は「そんな子は知らない」と言った。
どうしても触りたくて夜中にこっそり触ろうとしたけれど真珠も肉棒もどこにしまってあるのかわからなかった。

どうしてマツダ君は触らせてくれるのに、父さんはだめなんだろうと考えた。
ダイレクトメールを触ったとき、僕は意外に何も感じなかった。それまで抱いていたダイレクトメールや真珠への神秘性が翼をつけてどこかへ飛んでいったのだ。
「触ってもいいんじゃないか」僕はそう思って実行した。父の居る前で真珠に手を触れたのだ。父は言った。
「そろそろお前も一人で売りに行ってみるか?」
何時殴られるだろうと構えていた僕は拍子抜けしてしまった。あまりに予想外だったので思わずうんと答えて、それからは僕が真珠を売りに行くようになった。
なんだかワケが分からなくなってその夜肉棒に触ろうとすると父は僕をはね飛ばした。僕は2メートルぐらい飛んで壁に頭を打ち付けた。

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1-2.それが亀頭だなんて知らなかった。

「ギャピー!」

「父さんの肉棒も痛かったんや!亀頭は敏感だから汚い手で触ったりしたらあかん。よく覚えときなさい!」
父は僕を叱るときだけなぜか自分を「父さん」と呼んだ。僕はそういうときの父が怖くて怖くてたまらなかった。
自分のぶつかった壁を見ると血が付着していた。僕は小さな声で言った。「病院に行ってきてもいい?」
「痛いのか?」
「痛い」
「俺はその10倍痛かった」

父はそう言って僕を病院へは行かさず、それっきり肉棒を見せてくれなくなった。

僕は理不尽な怒りをどうすればいいか分からず親友の家へ行った。興奮していた僕は冷たいカルピスを飲みながら彼にこう言った。
「悪いけど亀頭見せてくれる?亀頭というのはつまりペニスのことだけど」

亀頭はペニスではなかったがそんなことはどうでもよかった。
300円で彼は見せてくれた。
僕は驚いた。彼のそれはそう呼ぶにはあまりにも小さく、その小ささといったら果たして本当にそれを肉棒と呼んでいいのかを僕を悩ませる程だった。
いや、もし彼の肉棒を目撃する人が50人いたとすればそのうちの50人はきっとこう答えただろう
「いや、あれは肉棒ではなかった。もし仮に肉棒だとしても私たちの知るそれとは余りにかけ離れた存在だろう」
僕は思わず彼の肉棒らしきものに触れてしまった。彼は驚いて僕を殴った。

「止めろ!人の亀頭に触るなんて、失礼な奴だな!出て行ってくれ!」

僕は唖然としながら促されるままに家を出た。
亀頭に触ってあんなに怒るだなんて思っていなかった。
このとき僕は初めて肉棒と真珠の違いを知り、父や親友に申し訳ない気持ちで一杯になって、だけどどうやって謝ればいいかわからなかった。三ヶ月考えて「父さん、肉棒みせて」と言った。それが思いつく限りの謝罪だった。
「俺の肉棒消えてもうたわ」父は空を見上げたままそう答えた。
肉棒は見せてくれなかった。

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1-3.

僕が真珠を売りに行くようになってから父は何もしなくなった。
一日中パソコンに向かいわろすわろすと呟くばかりで遊んでくれることもなかった。
そして父は、僕が12のときに死んだ。ドッペルゲンガーに殺された。

僕は山菜を採りに行くことにした。

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