ボクは一人ぼっちだった。
夕日が傾くころにはボクの友達は帰っていった。
ボクも早く帰らなきゃいけないのになぜだか帰りたくない感じだった。
今日も一人でボール遊びをしていた。
『なにをしているんだい? 愁夜?』
ボクを呼ぶ声。
振り返る。
だけどその振り返った人物の顔は微笑みながらも奇妙に歪んでいた。
不気味だと思った。
『お父さん!』
ボクの思いとは裏腹に駆け足でその男に近づいていく。
嫌なのに。近づきたくもないのに。
『さぁ、家に帰ろう』
おんぶされていままで見た風景が急に小さくみえた。
前を見ると黒く拾い男の背中があった。
男の背中はどこまでも吸い込まれそうな、ブラックホールのように広がっていた。
家に帰る。父は冷蔵庫にあった酒を飲む。
ここで初めてボクがなぜ家に帰りたくなかったのかわかった。
いままで笑っていたのが嘘のようにボクを蹴ってきた。
『オマエは! なんで! 生まれてきたんだ!』
容赦のない蹴り。
大声で泣いていた。
『うるさい! さっさと黙れ!』
蹴っているのに泣き止むわけないだろう。
『ちょっと! なにしてるの!!』
そこで女の声が家に響いた。
そう、どこかで見覚えのある顔……
聞き覚えのある声。
もっと見ていたい。もっと確かめたい。
そう思えば思うほど記憶はテレビの画面のようにブッツリと消えてしまった。