Neetel Inside ニートノベル
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 しばらく彼女はボクの目を見て嘘でないことがわかると、
「ホントのようね……いいわ。私も本を読みに来たから一緒に行きましょう」
「……あれ? もしかして昨日の図書室で読んでた子って……」
「そうよ。私。リフレッシュしたいときとか眠れないときに行ってるの。それに名前くらい覚えときなさいよ。私はこの屋憧(やどう)学園生徒会会長三年 霧梓 燕南(きりし えんな)。名前くらい聞き覚えないかい?」
 知ってて当たり前のことのように話す。
「ありません」
 即答する。
 生徒会長は唖然とした表情で、
「え……うそ……」
「いやぁだって朝礼とか全く行きませんしね」
 蓮葉や慶介といっしょに昼寝したりドッヂボールやら鬼ごっこやらかくれんぼをしてその間は遊んでる。子供だなぁ。
「ま、まぁ、仕方ないわね。そういう生徒もいるみたいだし」
 しょうがない、と自分に言い聞かせるようにブツブツいっている。


「さて、今夜は何読もうかな?」
 図書室についたボクは童謡や絵本が置いてある列で何かを探していた。
「あら、キミは子供みたいな本を読むのかい?」
「えぇボク実は記憶喪失なんでなにか手がかりはないかと適当に本を読んでるんです。昔のボクも本だけは好きだったみたいですし」
「そう、なんだ。すまない」
 会長は聞いてはいけなかったかのように気まずそうに謝ってきた。
「いや、いいですよ。べつに。それに今のボクは『本人』なのに『本人』じゃないって親からも言われてるんですから」
「……不安にならない?」
「え?」
 会長は本を手に取り椅子に座る途中で話してきた。
「急にいままでのことが……生きてきた証が全て無くなって時代というか時の流れに置き去りになってしまったことに……不安にはならないのかい?」


 そんなこと考えたこと無かった。だって起きたら『自分』は『自分』じゃない自分になっていて今までの自分は何もかもわからないまま……そのまま『自分』は『ボク』となった。今の生活に充実もしているし全く不安要素などない反面これでいいのか? 本当にこのままでいいのか?とふと思ってしまうことがある。
 いつかは取り戻さなくちゃいけないと思っている………………『ボク』じゃない『自分』の記憶。


「不安はありません。でもいつかは記憶が戻ったらいいなぁって思うくらいですよ」
 決意は心の中にしまった。
 会長はボクに向かって微笑を浮かべ、
「キミはいつもそうだったな……」
「なにかいいました?」
「い~や。まったく」
 肩をすくめるとまた自分の持っていた本を読み始めた。
 ボクもなにか読み始めないとな。
 そう思ってボクの目に止まったものは『おねえちゃんがくれたもの』だった。
 気になって手に取ろうとしたら………………

「図書室に誰かいるのか!?」

「!?」
 この声は……やばい! 生活指導の山吹だ!!
「会長……これ逃げた方がいいですよね?」
「キミは先に行け。ここは私が掛け合ってみよう」
 さすがは会長。物怖じしない。というかこういう状況になれているのだろうか。
「では、また会おう。愁夜」
「は、はい」
 会長は前の扉から出て行った。ボクもその隙に裏口から出て行った。…………………………あれ? 本名いったっけ?

       

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