Neetel Inside ニートノベル
表紙

〜Pandora Box〜
じゃあ、あの人は誰?

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 なぜ、ボクの記憶に会長が出てきたのだろうか? しかもボクより年上なのはわかっているのだが会長は今と全然変わってなかった。つまり、成長していなかったのだ。
 それはそもそも時間の概念すら覆していることになる。
 今の現段階の科学では時間を戻したり早めたり止めたりするのはスタンド能力以外不可能だ。もちろんスタンド能力などはない。あれはマンガの世界だ。
 では彼女は一体何者だろうか?
 根本的な疑問に戻る。
 結局、昨日は散々会長に振り回されたので悪夢を見る前に爆睡できたのが唯一の救いだ。
「おい! 会軌菜ぁ! オマエいままでどこ行ってたんだよ!」
 心配したんだぞ、と呼びかけるのは蓮葉だ。
「ん? あぁ、ごめん。ちょっと用事があってさ」
「そんなに大事な用だったのか? オレより?」
「ん~……確かに大事な用ではあったけど蓮葉ほどじゃないよ」
「ふ~ん、そっか」
 さりげなくも大胆に手を握ってくる。
 ボクも嫌じゃない。
「不安なんだよ……」
「不安? 何が?」
 ボクを握っている手に力がこもる。まるでいつも迷子になる子供を今度こそは離さないように、迷子にならないようにしっかりと握っていた。
「昨日さ、女と出かけてたろ? ……誰だ?」
 ストレートに聞いてくる。しかもその声にはうっすら殺気がこもっているようにも感じた。いや、驚くのはそこじゃない。なんで蓮葉はそんなこと知っているんだ? 女装もしてたんだぞ?
「会軌菜がいないって慶介から聞いたからちょっと探したんだ……探したら……見つかった。女と一緒の会軌菜を。なぁ……誰だ? アイツ。会軌菜は会軌菜で女装なんかしてるし……あんなのでオレの眼は誤魔化せない」
「あ、う、え、えと」
 まるでボクの心を見透かしたように答える。
 緊張で声がでない。
「答えろよっ。会軌菜!」
 胸倉をつかまれ壁に叩きつけられる。あれをどういえばいいのだろうか。
 どういい繕っても『嘘だっ!』で終わりそうなバッドエンドを迎えそうなんだが……
「オマエもオレを捨てるのか?」
「え?」
 そう告げた後、去っていった。その後ろ姿はなんだか寂しそうだった。

     

 それから数日間蓮葉とは気まずくて話すら出来なかった。
 図書室? いけるわけないだろう。
 だが、蓮葉は慶介には何もいっていないのだろうか蓮葉とボクの話題は触れてこなかった。それとも気を遣っているのかもしれない。
 もしかすると嫌な意味になるのだが蓮葉はボクを監視しているのかもしれない。この後、ボクがどうでるのか様子を伺っているのかもしれない。
 すぐに図書室へ行って会長と会うのか、蓮葉にあの時のことを説明し誤解を解くのか。
 そう思うとボクは蓮葉の部屋の前まで来てしまっていた。
 チャイムを鳴らそうとする。
「よぉ、待ってた。入れよ」
 先にドアが開きとりあえずお邪魔することになる。
「あれ? 蓮葉一人?」
「あぁ、同じ部屋の奴はどっか泊まりにでもいったんじゃないか?」
 嘘だと思った。
 リビングを見るとギョッとした。
 可愛らしいクマのぬいぐるみ、なにやら得体の知れぬ宇宙人、火を出している配管工事のおじさん。そのすべてがぐしゃぐしゃになっていた。
 たぶん今の蓮葉が恐ろしくて逃げるように出て行ったといったほうが正しい。
 ここまで人は人を狂わせることができるのだろうか。狂わせた張本人はボクだ。
「あのさ、この前のことなんだけど……あれはちょっとした誤解なんだ。あれはボクの記憶障害をなんとかしようとして出かけるはめになっただけなんだよ」
「あんなに楽しそうにか?」
 楽しそうだったのだろうか。笑顔だったのだろうか。
「違う」
 きっぱりと否定した。
「あの人は、会長は! ボクのために!」
「はぁ? 会長?」
 こんなにシリアスな空気なのに素っ頓狂な声を上げる。
「へ? だってこの学園の生徒会長なんでしょ?」
「オマエ、そんな嘘でオレがごまかせられると思ったか? そもそも生徒会長は男だ!」
 そのあと蓮葉はボクに怒鳴りあげていたが話の内容までは耳に入ってこなかった。そしてボクは帰った。頬に赤い手の形を作って。

       

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