Neetel Inside ニートノベル
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かーどげーまー真琴
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俺のターン、スタートフェイズからドロー。引いたのは「口先の魔術師」
今いらないモノを引くのはよくあること。そしてそれを上手く処理する手管もプレイングの一つ、―ってのは解っちゃあいるが、流石に厳しい状況だ。
相手の場にはカードが3枚。 まず「旋風王」こいつが厄介だ。こっちの攻撃はほとんどかわされてるに等しい上に
攻撃力が生半可じゃない。直でダメージくらってるとそれこそ数ターンでゲームオーバーだ。まぁこのゲームで直ダメがそうそう続くようなことなんてありはしないのだからそこまで憂慮する必要は無いが。次に王の前に2枚置いてある「つむじ風」。単体では大したことないが王が居るのがいけない。倒しても自動効果で場に戻ってくるからキリが無い。つむじにこちらの手数を裂いてたらそれだけでアドバンテージが取られていく。んなことするのは初心者と頭ワルイ人間だけ。

現状はこんなカンジ。ではどうするか?

答えは簡単、まず旋風王をどうにかして、しかる後につむじを排除。決定。まぁこの辺は当たり前っちゃ当たり前なんだが。戦略に奇をてらうのも必要だけど、今はそれどころじゃない。
で、今の俺の場には「踊り狂う凡人」と「可憐なニーソックス」、あとは「厳粛なる読書家」の3体。最後のはともかく前の2枚は全く戦力外通告を受けそうなネーミングだ。でもまぁこの『TAC』というカードゲームでのネーミングセンスにイチイチ突っ込んでたらキリがないってのは、プレイヤーなら誰でも解ってることなんで俺も早々に諦めてるけど。
そして相手の手札は3枚。旋風王デッキの構成からして、おそらく除去の類か。ならば場の凡人の起動能力を使うのはあまりよろしくない。ここは手札のカードでなんとかするしかないけど・・・よりによって今つかえねー魔術師引いちゃってるしなぁ・・・1ターン待つか? しかしなぁ、このまま行くと次ターンにもつむじが1体増えてしまうのは確定だし、なんとかこのターンに王を除去っときたいが。

ただ、俺の中の何かが警笛を鳴らしていた。そして俺はこう宣言した。

「アタックフェイズ無し、このままターンをエンドしたいがよろしいか?」

「おや、打つ手無しですか・・・ふへへ、相手が悪かったですねぇ。今日の俺は絶好調みたいなんで」
対戦相手の男が話しかけてくる。あまり係わり合いになりたくないカンジの喋り方だが、まぁ一応ルールに抵触しない試合進行手続き程度に相手はしておくことにする。

「ソウデスネ。じゃ繰り返すけどターン終了でいいかな?」
「へへ・・・了解です。こちらのターンスタート、ドロー・・・おっとこれまたいい引き」

経験上、いちいち言う必要の無いことを言ってくる相手は何パターンかに分かれる。

・ブラフ上手
・馬鹿

前者はなかなか手ごわい相手で、場合によってはその『口撃』をジャッジに牽制させた方が良いくらいだ。逆に後者の場合はどうでもいい。相手へ与える情報をいかに少なくするか、それが対戦の基本であるというのにそれを怠るのは、相手をよほどナメてかかっているのでなければ、馬鹿のやることである。実際俺は相手が何を引いたかなんとなく予想はついている。この場、でおそらく相手は除去を既に握っている、ならば追加の除去でのセリフとしてはありえない、ならば現状の俺の場をさらに悪化させるか、あるいは相手の場が取り返しのつかなくなるほど凶悪になるような、何か。まぁおそらくは後者の・・・

「ではメインフェイズに入りますよ。まずフェイズ開始時に墓地のつむじを1体、その特殊能力により復活させます。よろしいですね」
「まぁ対応できることなんて無いんで、どうぞ」
「ふひひ、そうですね。ではその後手札から旋風王、2体目を召還しますよ」
「・・・あっちゃー」
「ふふーん、これで終わりですかね? 何もなければアタックフェイズ入りますけどよろしいですか?」

まったくもってあちゃーな展開だ。
何故今ハンドの旋風王を出す必要がある? 確かに場的にはそのまま旋風王2体が蹂躙すれば俺は即死コースだろうけど、俺の戦力は場だけだと勘違いしてるのだろうか? 俺の手札=ハンドは5枚、相手のハンドはこれで2枚だというのに? 相手の行動に半ば呆れつつ、さてどうしよっかねーと思っていたら観客席の方から声が聞こえてくる。

「ねぇねぇ、まこってピンチなんじゃないのコレ?」
「まぁ場に出てるカードだけを見ればそうだな」

綾と涼だ。涼のヤツは当然の如くあっさり2回戦抜けたらしい。対戦時間10分か・・・まぁ流石か。普通、カードゲームの試合の時観客が対戦者が聞こえるように喋るのはいけないんだが、まぁ遠く離れてるし核心的な内容じゃないからいいんだろう。審判=ジャッジも見て見ぬフリをしてるし。にしても綾は毎度ながら声がでかすぎる。後で注意しとこう。・・・などと内心思っている俺なんぞ知ったこっちゃない綾は平気で喋り続ける。

「どういうことなの?」
「少なくとも俺の場合旋風王は出さないな・・・まぁ見てれば解る」
「ふぅん?」

まぁ涼なら見えないでも俺のハンドは解ってそうだしな。
では、期待にこたえるとしますか。俺はニヤリと笑った。

「アタックフェイズ開始、了解します」
「ではまずこのつむじで攻撃を宣言するよ」
「対応!」

このTACは古今東西のカードゲームの要素がふんだんに盛り込まれている。当然今のTACのルールはTAC独自のものといっても差し支えないが、カードゲームというシステムが生まれてから何十年も経っている今の時代に、それがあらゆる全てのものと異なっているなどというわけがあるはずもない。つまりはさまざまなTCGの亜流を寄せ集めたものが、このTACというゲームとなっていると言い換えても問題はないだろう。そして基本的にトレーディングカードゲーム=TCGというのは対人コミュニケーションツールと呼んで差し支えない。てれびげーむと違って(もちろん対戦ゲームというものもあるが、CPU相手でも楽しめるという特色があるソレ以上に)1人では遊べないという特色が際立っているため、常に対戦相手が必要となってくるのである。そしてゲームのルールに従っていれば各々がボタンを自在に好き勝手して操作してもよい対戦ゲームとは違い、自分の行動に対して相手の許可を求めることが必要であるし、その逆として相手の行動に許可を与えることもしなければならない。それは半ば義務としてあるようなものだ。
そうした中、このTACでは相手の行動に対して何かこちらが行動する際には「対応」という言葉を使う。これは他のカードゲームでもそれなりに浸透している概念であり単語であるが、TACのちょっと変わったルールとして『この対応宣言を堂々と行わなければならない』という規約があるのだ。この力強い宣言をすることで、相手はその動作を止めなければならない、という意識を強めるのである。そして今回もそれは作用することとなった。

「へ?」

呆然とする相手。それが落ち着くのを待ってやる義理は思い当たらなかったので、さっさと宣言を済ませてやることにした。

「『静止する時』をプレイしたい。・・・対応は?」

まぁ無いだろうと思いつつも聞いておく。

「な、無い」

「ではテキストを解決する。このターン場に出たカードを一旦、全てゲームから取り除く。その上でこのターンのバトルは禁止となるので攻撃宣言は失敗。そちらさんは取り除いたカード分だけカードを引いていい。この効果で引いたカードを破棄することでターン終了時に取り除いたカードを場に戻すことができるけど、どうするかい?」
「フン、当然捨てるに決まってるだろう。引いた分全部捨てて効果解決終了だ」
「了解。ではそちらターンにまだ何かあるかい?」
「ちっ、残ってる旋風王が居るので、それでアタックだ!」
「了解。その分のダメージは食らう」
「これで終わり。1ターンそっちが死ぬのが伸びただけだろ。このままターンエンド!」
「いやまぁ待ってくれよ。エンド対応だ」
「ぬ」

その場しのぎ使うだけでターンを投げるほど、俺は甘く無い。

「まぁ解ってると思うけど・・・『デモンズロード』プレイするよ」
「ぐ」

『デモンズロード』の効果は、通常のプレイ以外で場に出たカードを全てゲームから取り除く効果。今場に居るつむじは勿論のこと、このターンに帰ってくる旋風王も「通常のプレイで出たカードで無いもの」として取り除かれる。これによりもともと特殊能力で場に登場したつむじは全て消え去り、相手の場には前のターンから居た旋風王1体が残る。しかし取り除かれたつむじがもう墓地から復活することは無く、既に王としてそれは弱過ぎる。

「じゃあ俺のターン開始、ドロー。まぁ今引きの『いさり火』プレイするな」
「ちょ・・・都合良過ぎるだろう!?」
「まぁ運が無かったと思って、いさぎよく死んでくれ。」

『いさり火』により攻撃力が上がったとはいえ、ウチのカードはそこまで強くない。2ターン前ならば「つむじ」に食い止められて攻めあぐねていたろう。しかし前のターンで壊滅的な場となった相手に、この連続攻撃に耐える力は無かった。まぁ相手の残された手札から予想通り除去が飛んで来たが所詮は一時しのぎにもならない最後っ屁のようなものだ。

このゲームだけでなく、おそらくほとんどのカードゲームにおいて「プレイせざるを得なくなったカード」というのは弱いのである。例えば2ターン前、こちらが旋風王を取り除くことが可能な「踊り来るう凡人」のカードテキストをプレイしていたとして、その宣言に対応して相手が凡人を除去ってきたら、ほぼこちらの負けが確定していた。相手は2体目の旋風王を出す必要無くこちらの場を蹂躙できるためにこちらの静止する時とデモンズロードの効果が半減することになり、それこそが「打たざるを得ないカード」と化していた可能性が高い。勿論相手が終始慎重であるならハナシはまた変わってくるのだが。とにかく俺は可能な限り安全策を選択し、相手が勝ち急ぎ単純なミスを犯した。勝敗は誰の目にも明らかだろう。

「相手がカスなのと、アイツのヘタレなのが幸いしたな。いつもながら運のいいヤツだ」
「ちょっと涼・・・聞こえちゃうよ?」
「かまわないだろ。どうせ当たることは無い相手と、気兼ねすること無い相手だ」
「むー、そういうのよくないよー」

正直に言うとこの場では涼の発言より、綾の声量の方が問題ある。大会の場では静粛にすべきなのだ。地声が大きい人間は特に慎むべきだと思う。

「あっ、まこがこっち見た。なんか私の悪口言いたそう・・・」

いや、言ってないだろ? 思ってるだけで。

「愛がこもってるんだろ?」
「いやーん」

いやねーよ。テキトーなこと抜かすな涼。まぁいい、試合中だ。・・・さて、まだ相手が投了してないからパッパと片付けちゃうかな。

「じゃこちらのアタック終わりで。残りデッキいくつですか? こちら8枚」
「9枚」
「ん、じゃアタックフェイズ一旦終了。メインフェイズに戻って『絶対領域』プレイしますが対応ありますか?」
「なっ!! そんなモノ・・・」
「ありますか?」
「・・・ありません」

ふふん、悔しがってる悔しがってる。このカードを入れてる醍醐味よねこれ。相変わらずデカい綾の声が聞こえてくる。おまえしゃべんな。

「なにアレ?」
「あー、あれは真琴のビョーキの一つだな」
ビョーキ言うな。
「どうなるの?」
「場になんかチャラチャラしたカードあるだろ? アレがある時だけプレイできるまぁなんつーか趣味の領域のカードだよ。但し効果は半端無い。ゴミ箱の「娘属性」のカード分だけ相手にダメージ与えるんだが、アイツのデッキってほとんどそのテのカードばかりのキモいデッキだから、与えるダメージ半端無ぇの。まさにオタクだな。」
「でも強そうだよ?」
「基本的にニーソ娘が除去られたらゴミと化すからな。そうするとダメージが自分に帰ってくる。除去ある相手に使うのはまぁ自殺行為としかいいようが無い。上にニーソ娘基本的に弱ぇから滅多に場に出ないし。基本ホントに役立たねぇし。入れてる人間は―まぁいっぱい見るんだが」
「なんで?」
「俺が知るかよ、皆病んでるんだろ。でもまぁ入れててなおかつ強ぇのはアイツくらいなもんだ。見ろ、相手の場は王が1体、戦闘と能力は強いけど対応できる能力は無い。んで除去はさっき凡人に打ってる。カウンターで2発目が飛んでこなかったのは温存してるわけじゃなく単に持ってないからだろうあの相手なら。ならニーソ娘が対応で除去られる可能性は極めて低くなってる」
「へー。・・・よくわかんないけど」

説明してる涼が可哀想になることを言う綾。

「ニーソ娘は攻撃防御も全部低いし、登場も厳しい。前衛だと攻撃薄くなるし後衛だと確実に穴になる。」

そう、このデッキはニーソのためだけにデッキパワーを落としている型なのだ。ニーソ入れない方が強いのはある程度の上級者なら誰でもわかること。「勝つために正しい選択肢」ではありえないのだ。しかしTCGの楽しみ方はただ正統な方法で勝ちを目指すだけではないのだ。そして俺、橘真琴が好むのはただ一つ!

【外法による、破天荒な勝利】

ただそれだけなのである。だから俺はニーソを使うし、今の時代の正統派である流行の【旋風王デッキ】なんぞには負けていられないのである。

「まぁ、ヤツの構築センスと気概は俺も買ってはいるが、所詮は【上】に上がることを拒んだプレイヤーだ。いや違うな、上には上がれない2流止まりのプレイヤーというだけか。あのスタイルで俺達の立つ場所に来ることは無いだろうな」
「あれー、もう帰るんだ、涼」
「・・・あのデッキを見ても仕方ない」

・・・あー、そうだろうとも。俺の前に座ってるカスみたいなプレイヤーと、それを倒す程度のデッキなんて見ても仕方ないだろうさ。アイツ・・・皆方涼=全国区プレイヤーと俺たちの見てるモノとには決定的な差がある。

「しょうがないなぁ、あたしだけでも応援しておこっと。がーーんーーばーーれーー!!」

・・・椎名綾という女と俺との間の羞恥を感じる程度の差、にもかなり決定的な差がある・・・というか黙ってろ。流石にジャッジも注意するだろうが・・・ってニヤニヤしてんな糞ジャッジ!!

「チッ、女連れで会場入りたぁ余裕だな」
「・・・まぁ勝ち負けには関係ないけどね」
「クッ」

綾の阿呆が俺と付き合ってるとか主に俺が死にたくなるような妄想を描いてるらしい対戦相手が悔しそうに吐く。つまらん相手との会話はもともと得意でも好きでも無いからさっさと終わらせることにする。

「じゃ、こちらのターン、全員アタックね。何か対応は?」
「・・・無い、投了だ」
「ありがとうございました、と」

『45番 マコトタチバナ勝利』とジャッジが声高に宣言する。会場からは割れんばかりの拍手は・・・無かった。当然だ、他の卓はまだ試合中だ。TAC広島地区大会2回戦、まだまだ戦いは始まったばかりなのである。寄ってくる笑顔の綾のアタマをとりあえずどついてやろうと思いつつ、場外への扉へ向かった。

 - - - 

『TAC』、~タクティカルアルティメットカード~などと御大層な名称が付けられたこのゲームの歴史はそこまで古くない。新興の一発屋的な駄作カードゲームが生まれては消えるような戦国時代が過ぎ去り、純国産カードゲームが主にキャラクター物かあるいは惰性で売れている既存種のみとなって落ち着いていた時期に、それは突如として現れた。勿論当初の人気はそれほどでもなかった。そもそもが一番大事な時期のプロモーションを一切していないとかいう、販売戦略としては下作としかいいようがないスタートだったからだ。
しかし逆にそれが一部の好事家やWeb上で情報を収集するゲーマーのマニア心をくすぐる形となる。更に既存の亜流でありながらも多種多用なエッセンスを採用しつつ完成度が高く仕上げているその出来に惚れ込んだ人間は少なくなかったこともあり、初年度が終わる頃にはその分野で知らぬ者は無いくらいの知名度にまで高まった。
最初のカードセット発売から1年間は、小さなカードセットが数回追加されたのみだったが、それで知名度を上げて以降の販売戦略は迅速かつ的確だった。基本メディアを押さえ、Web対戦の整備すら整え、一気に国内TCG界での地位を不動のものにしたのである。
そしてついに開かれた初年度の全国大会で、なんと優勝が女性、しかも「現役美少女女子高生」などというアオリがつけられるような人物が優勝して各メディアは更にこのゲームを支持するようになる。
TCGという文化が国内で生まれてはや十数年、今もなお、TCG界は絶頂期であった。

     

「今さらながらちっともわかんないんだけど」
次の日の放課後、椎名綾は今更ながらそんなことを言ってきた。オーケー、意味がわからない。
「ちょっと待て。おまえ昨日大会観に来てたろが?」
「うん、涼とまこ見つけたんでこっそり後を追ってみた」
「そういうわけか―」
道理で。幼馴染モドキとは言え、趣味の面で一切似通うことのなかったこの女がカードゲームの試合なんて観に来るはずが無いと思ってたのだが、やはりその通りだったらしい。
「でも昨日のやつが涼が凄いとかっていうゲームでしょ? そのくらいは知ってるよ。確か賞金も貰えるとか」
「俺ら学生だから図書券だけどな」
「えー、がっかり。」
タカろうとしてたなコイツ。まぁ実際にはデカい大会だと50万分とかあるんで金券ショップで換金さえすれば多少目減りするけど全然使える・・・なんてことは黙っておこう。俺がタカるのに邪魔だし。
「でね、なんか面白そう、っていうか二人とも熱くなってるんだから面白いのかなーと思って、ちょっと教えてもらおっかなと思ったんだよ」
この万年惰性女が、珍しいこともあるもんだ。
「ふーん。ま、いっけど。さわりくらいなら1時間で余裕だし」
「そんなにかかるの?」
「覚えること多いからなぁ、ルール複雑だし」
「いやさ、ちょこっとだけでいいんだ。なんとなくまこ達が何やってるかわかればそれで」
「んー、そうだな。じゃあ複雑な解釈は抜きでゲームの大まかな流れだけ説明してやるよ。じゃあ今から俺は先生になる。よく聞いてろよ」
「はーい」

 ー - -

『TAC』というカードゲームは、対戦型のカードゲームだ。基本的に対戦は二人で行う。お互いに「デッキ」と呼ぶ自分が自分のカードを選んで持ち寄ったカードの束を使ってゲームを行う。「デッキ」はカード60枚で作られていて、~まあこれを構築っていうんだが~、人それぞれデッキのカードの中身が違う。
「つまりは遊び道具だね。一人一人が違った遊び道具を使うってこと?」
そうそれで合ってる。同じルールの元で決められた材料の中でそれぞれが道具を作って、それで遊ぶってカンジだな。構築ルールに関してはいろいろあるけど、一番単純なルールは「同じカードを4枚までしか入れてはならない」ってこと。つまり60枚でデッキを構築する・・・組むとして、60枚全てが同じカードであってはダメってことだ。
「ふーん。じゃあ使っていいカードの種類って何種類あるの?」
えーと、それはちょっと今わからない。確か今だと2000枚くらいだったような・・・
「そんなにあるの!?」
これでも別に多い方ってわけじゃないぞTCGの世界だと。まぁそれだけの枚数から60枚厳選するんだから作られる道具=デッキは人それぞれってわけだ。自分の好きなカードを入れて作るもよし、ひたすら強いカードを厳選して組むもよし、他のゲームだとなかなかこうはいかないから、これがカードゲームの魅力の1つだな。
「他のゲームって?」
たとえばTVゲーム。格闘ゲームなんていい例だな。あのテのゲームでどんなに上手くなったとしても所詮はゲームシステム的に設定されてる自分の使用キャラを強くすることはできないだろ? ・・・いやまぁカスタム機能があったりして技をお好みで選べたりするゲームもあるとは思うんだが、そういうものは少数派だ。 基本的にはゲーム側に設定された持ちキャラ=道具しか使えない。せいぜい2桁だろうな。
「うん、その例えはなんとなくわかる」
だけどカードゲームは違う。このTACで自分のデッキを1000枚以上のカードの組み合わせから60枚選ぶっていうことが、どれだけ膨大な選択肢を生んでるのか、想像すらつかないだろう? おまえ数学弱いしな。
「余計なお世話だよ」
まずはその膨大な選択肢の中から、自分だけのデッキを作って、さらに同じような選択肢から作られた相手の、相手だけのデッキと勝負する、そんな凄ぇ勝負が手軽に楽しめるのはやっぱりカードゲームっていうツールのヤバい魅力だよ。
「なるほどねー。二人がのめりこむのも分かってきたよ。でもまぁそんなのは割とどうでもいいんだけどね、ルールを早く」
ちょ、人がいいこと言ってるってのに・・・まぁいっか。とりあえずデッキ作るとこまではOKな。作り方にもまぁ色々あるんだが、基本的なルールという意味では「60枚にする」ってとこだけわかってりゃいいから飛ばすな。
「いいよー。先、先」
お互いが60枚のデッキを持ち寄るとこからスタートだ。まず相手とじゃんけんか何かで先攻後攻を決める。
「どう違うの?」
とりあえず流れだけ話すから質問は後にしてくれ。で、その後お互い手札を7枚引いて勝負開始。お互いが交代交代に自分の「ターン」を持って、その間に出来ることをしつつ、「ターン」の投げ合いをして、最終的にデッキが無くなった方の負けになる。
「デッキが無くなるって、どうやって?」
このゲームは自分のカードをプレイして、つまり召還ってカンジだな、その召還したモンスターなりなんなりを使って攻撃すると、相手のデッキが減るシステムを採用してる。ゲームによってはライフポイントとかが別に設定されてるものもあるけど、この「TAC」は自分のモンスター=クリーチャーが攻撃して、その攻撃が成功するとそのダメージで相手のデッキが削れるってわけだ。
「じゃあ60点ダメージくらったらダメってこと?」
正確にはそんな大きなダメージの応酬は無いけどな。だいたい平均2、3点ってとこだ。毎ターンごとに自分がカードを引いてる分で自然にデッキアウトに近づいてるから、10回も殴られれば試合は終わる。

 ー - -

「とりあえず触りだけだが、どうだ?」
「うーん、なんとなくわかったけど・・・聞いてても難しそうでなんか私がやってもあまり面白そうじゃないなぁ」
まぁそうだろうなぁと思う。俺が説明下手ってのもあるけど、ゲームはやらないと本当の面白さがわからないのはどんなゲームも変わらない。
「まぁいきなり面白さを理解するのは適正が要るからな。俺は割りと色々やってきたからシステムの理解は早かったし、それなりに面白いと思えたからここまで続いてるけど、ソッコー辞めしまうヤツも多いから『これが最高だ!』なんて一概には言えないし」
そう、カードゲームはまさに趣味のゲームだから、個人個人のシュミによって大きく好みが分かれる。デッキ=ライフというシステムに慣れない人間、他のカードゲームのシステムに毒された人間はもとより、そもそもアナログなゲームに魅力を感じない人間などはなかなかこちらに入ってこれない。
「でもま、一回やってみるってのも悪くないと思うけどな俺は。女のプレイヤーでもクソ強ぇ奴とか居るし」
「そうなの?」
「獲得賞金額が8桁だとかいう噂を聞いたことある」
例の初年度全国大会優勝とかいうやつだ。実際に見たことは1度だけだが、あの強さは本物だと感じた。
「なにそれ! 働かなくていいじゃない!!」
「もうそこまでくると、TACプレイヤーが仕事ってカンジだな。実際『プロ』も少なく無いよ」
「うわー、凄いけど・・・ちょっとヒくね」
まぁ俺も楽しむことがメインなので、それには同意したい。勿論そういう人間に並ぶことができたらそれは気持ちいいだろう。しかし実際はどうだろう・・・例えば趣味でサッカーをしてる人間は全てプロのサッカー選手になりたいってワケじゃない。上手いサッカー選手に憧れはするが、人生のウェイトで重きを置くことを良しとするかどうかは、人それぞれだろうと思う。つまりはカードと俺もそういうことだ。
「そうだなぁ、俺レベルだとちょっと雲の上の人間を見てるカンジだな。 ま、涼あたりは違うんだろうけど」
「ヘタクソのまことは違って、涼は強いらしいねー」
「俺が特別ヘタみたいに言うな。 ・・・あいつは別格だよ」
そう、一緒に始めたアイツが上を目指すと決めた時、俺は「楽しむプレイヤー」として進まざるを得なくなったんだから。

「ところでさー、まこ。1つ気になってたんだけど」
「なんだ?」
「TACって何の略なの?」
「タクティカルアルティメットカードだよ。書いてあるだろ?」
何を今更・・・
「そう言ってたよね。でもアルティメットってUから始まらない? 『TUC』じゃないのかな。」
「・・・あ、れ?」
確かに俺もゲームやり始めた時、まったく同じように疑問を持って、涼に聞いた。そう、間違いなく聞いた。聞いたのは3年前の俺だ。そしてあの時あいつはこう言った。
「俺も気になって調べたんが、正式な略称はオフィシャルで告知されてなかった。パッケージも同様だ。きっと何かのタイミングで発表するつもりだろうが。まぁどうせ『タクティカルアルティメットバトル』とか仰々しい名前だろうよ」
「おっ、それカッコイイな!!」
思い出した。何のひねりも無いそんな名称を信じたのはあの日の俺だ。こんな初歩的な間違いに気づけなかった俺は何なのだろう?
「・・・散々私おバカ扱いしてたけど、まこも英語だけは赤点常連だから仕方ないねー」
「う、うるせー!」
そういえば今思えば涼も英語はさっぱりダメだったのを思い出した。英語で有名なカードゲームたるM●Gでもやっておけばよかったなぁ。
「バカ話はもういい。TACはTACだ。略はしらん。何か文句あるか?」
「うわー逆ギレだー。」
「で! やるのか、やらねーのか?」
「うーん・・・」
正直、こいつに教えることが俺のメリットになるとも思えないが、涼というパートナーを失って早数ヶ月。確かに俺1人では大会前の調整等をするのにかなり限界が来ていたのも確か。ここで近所のコイツが始めてくれれば、あるいは調整相手、サンドバック程度には役立ってくれるかもしれない。

「ま、やってみてもいいかな。最近ヒマだしねー」
「オーケーアメリカ。じゃあ今からウチに来い。基礎をみっちり仕込んでやるから」
「え! まこん家? 今から?」
「始めるなら早い方がいい。主に俺的な理由でな。あ、一回家帰ってから来るなら俺だけ先帰って準備してるから、後から来てくれ。玄関の鍵開けとくから。じゃな!」
言うが早いか、俺は教室を飛び出した。上手くいけば週末の大会に間に合うかもしれない。面白さを理解するのには大会に出てみるのが手っ取り早いが、それにも最低限の準備は必要だ。これから数日、忙しくなりそうだ。

「・・・はぁ、せっかくならもうちょっと誘い方に凝ってくれないかなぁ・・・ぶつぶつ」

       

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Neetsha