Neetel Inside ニートノベル
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HOUSE FROM HOUSE
第三話 少女

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「あなたの名前は?」
「俺の名前は新羅悠輔(シラギユウスケ)」

「所属は?」
「都或大学二年生、生物研究のサークルに所属してる」

「どういう経緯でここに来た?」
「林で迷ってたら、この洋館に遭って中に入った」

「好きな食べ物は?」
「シュークリームだ」

「好きな漫画は?」
「二流ヒーローのニートの主人公がチート野郎と戦う漫画と、
貧乏な作者が錬肉に挑む漫画」



「(・・・ってか何で俺が質問されてるんだよ・・・)」


俺が質問をしようとしたはずなのに、
いつの間にか彼女にまた質問をされていた。



彼女に質問され続けて30分くらい経っただろうか。
彼女は椅子に腰掛けながら言った。


「・・・つまりあなたはこうね」
「シュークリーム好きで、生物研究をしていて、毎日二回の(略)った大学二年生」

「(凄い要約だな・・・)」
「・・・ま、まぁそういうことだな」

微かだが、彼女が笑った気がした。たぶん気のせいだけど。


俺は頬をかきながら言った。
で、おもむろに立ち上がると、ちょっとリラックスした、少なくともさっきまでの俺とはまるで違う表情で尋ねた。

「・・・君は、何処から来たんだ?」


彼女はちょっと真面目な顔でこう答えた。

「・・・何処から来たのか、分からない」
「え?」

俺は自分の耳を疑い、もう一度脳内再生してみた。
ドコカラキタノカ、ワカラナイ?一体何を言っているんだ?
俺は自分自身に尋ねるように、彼女に尋ねてみた

「分からないって、どういうことだ?」


彼女は少しうつむいて話し始めた。


「私は、物心ついたときからここにいて、今まで何百何千何万もの扉をくぐってきた」

「だから、私は自分が中の者なのか、外の者なのか知らない」


俺はちょっと疑問に思った。

「中の者と外の者って、そんなのあるのか?」


彼女は顔を上げて、こう言った。

「外の者は文字通り、ミステリーハウスに迷い込んだ者」
「もし彼らが運良く外へ繋がる扉を見つけたなら、彼らは再び外の世界に戻れる」

彼女は椅子を立った。

「・・・・・・だけど中の者は違う」
「彼らは、生まれながらにしてこの中で誕生した」
「果たすべき役割を持って、誕生した」

俺は彼女に尋ねた。

「・・・その果たすべき役割って?」


彼女は少しためらって、続けた。

「・・・・・外から来た者を、殺すこと」
「・・・・!?」
俺は驚愕した。殺すことだって!!?
「中の者は、外の者を殺せばその者の代わりとして、ここから出ることが出来る」

「・・・中の者にとって、外の者はいわば『獲物』」

彼女は、再び顔を上げた。

「まぁ、中には外に出ずに永住している人もいるけど」


俺は考えるようにうつむいて両手を交わした
・・・あまりの事実に驚きながらも、あることを確信していた。


中の者だろうが、外の者だろうが、

少なくとも、彼女は俺の敵ではない。
確証はないのだが、なんかこう、俺の中にある第六感みたいなものがそう確信した。
口にはしなかったが。












また暫く、沈黙が続いた。













俺は、その沈黙を破る問いを、彼女に投げかけた。


「・・・君の名前は?」



すると、それまで暗めだった彼女の顔が、少し明るくなった。

「名前・・・そう、」

彼女は吹っ切ったように言った。



「私の名前は、ない」



・・・またちょっと、沈黙が続いた。
そして、その沈黙を裂くように、俺が声を上げた。



「名前が無いだって!!?」
「そう」
「・・・はたまた、それはどういうことなんだ?」
「言ったでしょ?私は物心ついた時にはここにいた」
「だから・・・私には名付け親がいないの」

「・・・・・・・・」
「それで、名前が無いってことか・・・」
「そういうこと」
「・・・・・・・・・・」




「そうだ」

彼女はこっちを向いてこう言った




「新羅、だっけ、君がつけてよ」

「・・・・・・・・・・・・え?」
俺は驚きを隠せなかった。

「俺が名付け親って、どういうことなんだよ」


「新羅は、私がここで出会った初めての人なんだから」

彼女はちょっと笑みを浮かべたように見えた。多分気のせいだと思う。



俺はいつの間にか考え始めていた。

名前・・・・・
自分が名付け親になるなんて思いもしなかった。
名前なんて、そんなにわかんないぞ・・・









そんな時、ある掲示板が浮かんだ。
俺がいつも行っている、某巨大掲示板である。

いや、でも・・・
そんな名前をつけたら彼女は傷つくだろうか。
・・・ここから出たことが無いなら掲示板というものの存在は知らないだろうが・・・




でも、考えるより口に出てしまった。






「君の・・・君の名前は・・・・・」

















「・・・君の名前は、奈梨蒜」


彼女は、しばしボーっとしていた。

「・・・ナナシ、サン?」
「そう、奈梨蒜。・・・これで、いいかな?」

俺は彼女に否定されるのが怖かった。







「いい名前」

彼女は始めて俺の笑みを浮かべた。それまでの彼女とは違う、屈託の無い笑みだった。



彼女は俺の前に座りこんで、言った。





「私は奈梨蒜。よろしく」

       

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