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あれから・・・




60年の月日が流れた・・・



上谷は変ってしまった。

頭は白髪、顔中にはしわがある。年齢はもう90に近い。
歩くのも精一杯だった。


こつこつとためていた貯蓄があるため、家族からの援助はいらずして老人ホームに入ることが出来た。

と、言うより援助してくれる家族がいなかったのだ。


上谷はソファーに腰をかけ、テレビを眺める。


「阿武隈さんですねー、少々お待ちください」

看護婦の声が上谷の耳に届いた。
年は食っても、耳だけは若い人間に負けず劣らずいいものだった。

阿武隈という名前に、上谷は身震いした。

曲がりきった腰を精一杯ぴんと張る。

杖をつきながら受付にたつ老婆のもと駆け寄る。

「し、白瀬さんかい・・・?」

かすれた声で老婆に話しかける。

「どなたさまです・・・?」

老婆はしわくちゃの目をさらに細めた。まるで目がなくなったように見える。

老婆は、はっと思い出したかのように言う。

「上谷さんかい・・・?」

「ふぉっふぉっふぉ・・・。そうじゃよ!わしじゃよ!」

上谷は幸せの絶頂にいた。


ウィーン、と自動ドアが開く。


「おばーちゃーん!!」

中学生だろうか、かわいらしい制服を着ている女の子がこちらに駆け寄ってくる。

「おやまぁ、真理ちゃんかい?よくきたねぇー」

(まさか・・・)

「お母さんたちと今日田舎に戻ってきたの」

(そんな・・・)


「なんてことじゃああああああああ!!」

上谷は老人ホーム中に響き渡るような大声を出した。

「ま・・・孫なのか・・・」

上谷は声を漏らした。

周囲の人たちは上谷をにらんでいた。

「え、えぇ・・・わたしの孫ですよ・・・急に大声ださんといて下さいな・・・孫がびっくりしてるじゃないですか・・・」

知らせが迷惑そうに言う。


上谷は緊張、一目惚れ、それらとはまるで違う胸の痛みを感じた。

「ウッ・・・」

上谷は苦痛のあまり、声を出してしまう。
徐々に痛みは膨らんでゆく。

「ウッ・・・うぅ・・・」

(ほ・・・発作か・・・!)

上谷は気がついた。




これは



ショック死の



前兆だということを。



気がついたときにはもう遅かった。
上谷は床にもんどりうつように倒れこんだ。
看護婦たちが駆け寄ってくる。
だが、上谷はもう気がついていた。
もうわしは駄目なんだ、と。




わしは・・・




なんのために・・・



何十年も・・・・



しかし・・・



我が人生に・・・



もう・・・



悔いはない・・・