Neetel Inside 文芸新都
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最期の一週間
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朝8時。通勤通学ラッシュに飲まれながら私はいつものように新宿にやってきた。
いつものようにJR中央線のホームから駅構内へ入り、改札を抜け
いつものように新宿駅前の往来を闊歩しておるときであった。
前からいかにも怪しげな、しかし金持ちそうなシルクハットをかぶったわざとらしい感じのジェントルマンが
私の方を向いて歩いてきた。
さほど気にしてはいなかったが、最近は物騒である。往来は危険に満ちているのである。
そしてこのジェントルマンは怪しい。私が逃げるのは自然。
ということで早歩きでこのジェントルマンの進行方向と反対方向へ歩いておると
なんとこの紳士、ダッシュでこっちに走ってくるではないか。
私は何をされるのだろう。もしやこのシルクハットの中からなにか鈍器等の武器を取り出し襲われるのではないか。
最近は物騒であるし・・・
いろいろと勝手な妄想をしながら早歩きで逃げること30秒。
私は横断歩道の前でとうとう紳士に追いつかれた。
終わった、と。殺される、と。思っていても何ができるわけでもなく
とりあえず目を背けていると、私の予想に反して紳士は何のこともなく横断歩道を渡っていくではないか。
ああよかった。
今朝も人身事故で電車が遅れたところだ。これ以上の災難など、不幸など御免被る。
私は再び自らの日常に戻った。
行き着けのカフェ(といっても漫画喫茶だが)で優雅にコーヒーを飲み干しながら
それはもう優雅に読書(といっても漫画だが)をして家路に着く
これが私の日常である。生活である。
別段、贅沢な生活ではない。だが私は満足している。
この一時間300円の漫画喫茶で十分なのだ。
さて今日もいつもの如く家に帰るか。と漫画喫茶をでて
再び駅へ向うため往来を闊歩しておったときであった。
朝の紳士がまだ駅前に居るではないか。
なんだこいつは。なんのためにここに居るのだ?
まぁそんなことはどうでもよい。これ以上我が日常に介入してくるでないわ
この不審者がっ!!
心の中で叫んで居ると、また朝のように紳士がこちらを向いて歩いてくる。
というか今度は最初からダッシュである。
夜だし、こういう繁華街は危ないから今度こそ殺されるやもしれぬ・・・
とまたまた勝手な妄想をしておると、またまた朝の横断歩道で紳士に追いつかれた。
なんなんだこいつは。怖いだろうがアホが。ボケ。
もう我慢ならん。俺はこいつに一言いったる。

「何かお探しですか?それとも道に迷われました?」

言ってやった。阿呆が。不審者めが。
ざまぁみろ。お前は朝から不審なんだよ。
これで何も探してないなどといって見ろ。お前は不審者どころか、浮浪者だ。この阿呆が。
怖いんだよボケ。
ほらなんかいって見ろ。どうせなにも探しとらんのだろうがこの浮浪者めが。
強気の姿勢で居ると、紳士が口を開いた。

「ああ。私が探していたのはあなたですよ。」

「はぁ?なぜ私を探すのです??」

思わず、はぁ?などと口走ってしまった。これでは巷のヤンキーやチーマー同然である。厭だなぁ。はずかし。
しかし不思議だ。こいつなぜ俺を探しているのだろうか?
思っていると紳士が

「あなた。あなたね、あと一週間で死にますよ。」

???。さらにわからないよ?なに言ってるの?どうして僕が死ぬのかなぁ?
完全に精神を病んでますねこれは。
でもなにを根拠にこんな戯言をぬかすのでっしゃろ。この浮浪者。
いっちょ聞いてみたろか。ということで

「なぜ私が死ぬのです?」

「私には神の声が聞こえます。」

「だからなんです?なぜ私が死ぬのです?」

「神がそういったからです。」
話にならん。このおっさん完全に頭おかしい。だめだ。
もう相手してられん。いこ。
私は紳士に、「ああそうですか。」と一言で済ませ
ダッシュで駅に向うことにした。じゃあねおっさん。

「ああそうですか。ではこれで・・・」

「ちょっと待ってくださいよ。あなた信じてないでしょう。今から証明しますよ。」

「いや、いいですから。ではこれで・・・」

「あなたの前に居る青い水玉のネクタイで黒ぶちのめがねのサラリーマン。彼電車の事故で今死にますよ。」

「ああ。そうなんですか・・・ではでは。」

「まぁいいです。信じたなら、もう一度この交差点にきてください。いつでも居ます。」

「・・・・んじゃ」

まったく、冗談にも言っていいもんと悪いもんがあんだろ。
死ぬとか事故するとかさ・・・本当にやめてほしいね・・・・・
まぁもう今日は帰るか・・・・・。

いつものように家に帰ることにした俺は、改札を通り、階段を上り、ホームに立つ。
次の電車までの待ち時間は3分。
そういえばさっきのサラリーマンはどうなるだろうか?
まぁ、どうせどうもならんのだろうが。

たまたま隣の乗り口に立っていた水玉ネクタイのサラリーマンを見ていた俺。

ホームに電車が着くというアナウンスが入る中サラリーマンは俺の方をちらと見て二コリと笑う。

サラリーマンは電車に飛び込んだ。今日も中央線は遅れた。


紳士に会おう。会わなければならない。


俺は改札に戻り、新宿駅職員に切符を返し精算し、紳士の待つ交差点へ行くことにした。

       

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